2021 Fiscal Year Research-status Report
装飾農園の変容にみるイギリス農業コミュニティの発展と継承
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18K00372
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
今村 隆男 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90193680)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 装飾農園 / 模範農場 / イギリス庭園史 / イギリス農業史 / ナポレオン戦争 / 産業革命 / 農業革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、装飾農園がどのような発展を遂げていったのかを、模範農場(Model Farm)との関連を軸に考察した。その結果を概略すると、以下のようになる。農場の模範例は18世紀初めにイタリアから移入され、以降、装飾農園における美と有用性の両立が不可欠とされた。その後、特に革命後のフランスとの戦争はイギリスの農業改善を要請し、農園における美と有用性の両立は不可能になって収益性の追求が至上となっていく中で、イギリスの農園は囲い込みによる大規模化や科学的技術の導入による効率化によって国家的需要に応えようとした。文献資料によれば産業革命が進み始めたころから富裕層が居住館の近くに“Home Farm”と呼ばれる農場を作ることが増えたが、これは装飾農園という名称が使われなくなっていった18世紀末から19世紀初めに重なる。したがって、模範農場は装飾農園が継承されたものではないかと考えられるが、この点はさらに具体的資料に基づく比較が必要であろう。19世紀が進むと“Home Farm”からより実践的な“Model Farm”へと移行し、運営者は富裕な地主層から農業実践の専門家へと変わっていった。S. W. Martinsの研究によれば、模範農場は蒸気機関を動力源とする大規模農業機械を導入することで効率化を計った一方で、伝統的なイタリア式配置プランを尊重するなど美観への配慮を失うことはなく、装飾農園の伝統は完全に消滅しなかったと考えられる。以上の研究によって、18世紀前半からおよそ100年間にわたる装飾農園の変容が明らかにできた。また、これらの考察と関連して、農園分析の中で明らかになった18世紀後半の庭園史・農業関係建築史・農業理論史をまとめ、単著(『ピクチャレスクとイギリス近代』)の三つの章(第三章ピクチャレスクと庭園、第四章ピクチャレスクと建築、終章ラグルズ「ピクチャレスク農業」)として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に行う予定であったイギリスにおける農園の現地調査や現地での資料取集は2021年度もコロナ禍が原因で実現しなかった。また、時期にもよるが国内の移動も制限を受け、予定の通りには進まなかった。国外、国内での調査研究が十分に行えなかったおかげで、研究は全体として「やや遅れている」とせざるを得ない。一方で入手可能な範囲での文献の研究は行うことができ、懸案であったイギリス近代の農業史についての考察をかなり進めることができた。それによって、18世紀の末から19世紀前半までのフランスとの戦争や産業革命を背景にした農業変革の激動期に装飾農園がどのように継承されていったのかが明らかにできた。また、研究実績の概要にも書いたように、これまでの本研究の成果の一端をまとめて出版できたのは大きな前進である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、一昨年、昨年と延期しなければならなかった現地での調査や資料収集を可能であれば行いたいと考えているが、現時点では2022年度の夏季に実施できるかは不明である。実施できる場合は当初の予定にあったがこれまで取り掛かれなかった部分の研究計画を進めることになるが、渡航が依然として不可能である場合は、現地調査を省略して資料分析を中心に最終年度の研究をまとめたい。最後の年度は、まずは19世紀以降現代までを研究対象とする。19世紀にはいって、対仏戦争の中での農業不況を農業改革を断行することによって乗り切ったイギリスでは、ビクトリア時代になると商工業の価値が農業のそれに勝るようになり、農業は大規模な投資の対象ではなくなっていった。それによって農園の意義がさらに変容してゆく中で、装飾農園の伝統がどのように継承されていったのかを考えたい。研究予定としては、近現代の農園形態のほか、産業資本家による労働者用理想都市や田園都市構想といった農業以外の分野も視野に入れながら、先行研究を踏まえて19世紀以降の変遷を考察する。その際、R. OwenやE. Howard といった実践家のほか、W. CobbettやW. Morris、J. Ruskinらの文人による文献・構想も手がかりとしたい。その上で、研究期間全体を通して考察することで装飾農園の意義は何であったのかを総合的に明らかにし、最終的に本研究をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
海外での現地調査や資料収集が行えず研究活動の制約を受けたため、研究費が少し残ることになった。次年度は最終年度であって残額は少ないので、主に資料購入に使用する予定である。現地調査のための海外渡航が可能になった場合は、渡航費の一部にあてたい。
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Research Products
(1 results)