2019 Fiscal Year Research-status Report
初期近代英国史劇の生成と発展-劇団・劇場・俳優のネットワークを中心に
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18K00424
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
真部 多真記 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (30364483)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シェイクスピア / ヘンリー八世 / 歴史劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
16世紀末から17世紀初めまでの歴史劇の動向を引き続き考察した。今年度は、シェイクスピア・フレッチャー共作の歴史劇『ヘンリー八世』をとりあげた。この劇はシェイクスピア作品のなかでは、チューダー王朝が成立するまでの内乱の歴史を描いた1590年代の歴史劇とは異なり、対外戦争にあけくれながら国王としての基盤を築いていこうとする国王の物語というよりは、シェイクスピア後期のロマンス劇との類似という観点から論じらることが多かった。しかし、『ヘンリー八世』が書かれた時代背景、材源となっているホリンシェッドやストウ、フォックスの使い方、作品に書かれているヘンリー八世の「良心」の問題、この劇以前にすでにヘンリー八世が登場する歴史劇は複数存在していること等を考慮にいれてあらためて考察すると、チューダー朝が終焉した後にあらためて、イングランドの宗教をいばらの道へとすすめさせたヘンリー八世という国王を振り返る歴史劇と考えられる。とくに興味深い点としては、エリザベス女王時代あるいはジェイムズ1世即位後も、国内に宗教問題で危機的状況が生まれるときに、ヘンリー八世のイメージが詩、パンフレット等に多用されることがあった。このことを『ヘンリー八世』が上演された1613年頃にあてはめてみると、前年にはプロテスタントからの信望があつかったヘンリー王子の死去、あるいは国際的なプロテスタントネットワークにおけるイングランドの難しい位置づけなど、上演当時はあらためてカトリック、プロテスタントのどちらが正しいのかをつきつけられる時代であり、その始まりをつくったヘンリー八世は格好の題材であったと推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヘンリー八世の詩やパンフレットにおける表象をEEBOで調べるのに思いのほか時間を費やしてしまったこと。
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Strategy for Future Research Activity |
『クロムウェル卿トマス』(1600年)『わたしをみれば、わたしがわかる』(1605年)におけるヘンリー八世の描かれ方を考察し、『ヘンリー八世』への鉱脈をたどる。この十数年の間に劇作家および劇団にどのような変化があったのかを考察し、シェイクスピア最後の歴史劇の意義を考えたい。
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Causes of Carryover |
新型ウイルス対策のため、図書館でのデータベースリサーチや図書閲覧の機会が減ってしまい、研究出張用の旅費を消化することができなかった。次年度は計画的に研究出張をおこない、適切に旅費を消化することにする。
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