2020 Fiscal Year Research-status Report
初期近代英国史劇の生成と発展-劇団・劇場・俳優のネットワークを中心に
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18K00424
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
真部 多真記 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (30364483)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シェイクスピア / ヘンリー八世 / 宗教改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
シェイクスピア・フレッチャー作『ヘンリー八世』はシェイクスピアのエリザベス朝の歴史劇とは異なり、ヘンリー八世はヘラクレス的な強大さを誇る国王でなければ、マキャベリアン的資質に長けた王でもなく、廃位という絶望のなかで王の資質を再認識する悲劇の国王でもない。シェイクスピアの16世紀末の歴史劇はチューダー朝に至るまでのイングランド史を王権表象からとらえた劇であるが、ジェイムズ朝に至り、シェイクスピアが最後に若手作家と共作したこの歴史劇は、スチュアート朝下でプロテスタントとカトリックの正統性が問われる中、イングランドの宗教改革の始まりをヘンリー八世の治世に見出そうとするものである。ヘンリー八世の宗教改革における評価の難しさはジョン・フォックスのActs and Monumentsにも明らかで、フォックスは宗教改革におけるヘンリー八世の初期の実績を評価し、「始まりの人」であることを強調している。ホリンシェッドもヘンリーの宗教改革に対する態度はアンビバレントである。こうしたヘンリー八世の評価の難しさがイングランドの宗教改革をめぐる真実の行方について、劇団および劇作家が関心を抱いた可能性がある。また、ヘンリー八世を描く劇は『ヘンリー八世』以前にもあり、すでに指摘されているように、シェイクスピアはWhen You See Me, You Know Meには大いに関心があったことがわかっている。今年度はフォックス、ホリンシェッドを丹念に読み、キャサリン妃との離婚の経緯をたどり、『ヘンリー八世』との差異を明らかにした。そして、『ヘンリー八世』で焦点がおかれている真実の意味を考察した。また、この劇がジェイムズ1世下で上演された意義を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
EEBOなどデジタルアーカイヴズを使用して16世紀後半から17世紀にかけてのヘンリー八世に関するバラッド、パンフレット、説教集等を読み、ヘンリー八世と宗教改革のはじまりに関する表象について演劇以外の作品も分析対象とする予定であったが、大学図書館の閉館や時短開館が続いたためデジタルアーカイヴズを使用する機会が十分でなく、テクストも十分に分析することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘンリー八世の妻キャサリン妃が当時のバラッドでは、結婚に際して衣服をはぎ取られ、再び夫によって衣服を与えられるグリゼルダに例えられていることに着目し、『ヘンリー八世』で離婚に反対するキャサリン妃の主張をホリンシェッドの歴史書や当時のバラッドと比較しながら、国王が行使する法によって存在を否定されていく女性について考察をすすめる。1年間の研究課題延長が承認されたので、引き続き、EEBO等のデジタルアーカイヴズを大学図書館で利用しながら、すすめていく。
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Causes of Carryover |
大学図書館でデジタルアーカイヴズを使用する予定であったが、閉館や時短開館が続き、出張することができなかった。今年度は開館状況が改善されてきたため、大学図書館に出張し、資料複写等をおこない適切に使用する。
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