2020 Fiscal Year Research-status Report
太平洋横断的ヴェトナム系アメリカ文化研究の構築にむけてー難民文化の再越境と変容
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18K00435
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
麻生 享志 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80286434)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ベトナム系アメリカ文化 / 文化の越境 / リトルサイゴン / 太平洋横断的 / アジア系アメリカ文学 / ベトナム戦争 / 難民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度においては、単著『『ミス・サイゴン』の世界―戦禍のベトナムをくぐり抜けて』(小鳥遊書房2020年4月)、単著『「リトルサイゴン」―ベトナム系アメリカ文化の現在』(彩流社2020年9月)を刊行した。また、アジア系アメリカ文学会第142回AALA例会(2021年3月27日オンラインにて実施)において、研究発表「「難民母娘の自伝的語り―Lan Cao and Harlan Margaret Van Cao, Family in Six Tonesを読む」を行った。 1)『ミスサイゴンの世界』:1989年イギリスで制作されたミュージカル『ミス・サイゴン』を多角的に分析した概要書である。一般読者を意識しつつも、これまで本科研費研究で積み上げてきた研究内容を盛り込みながら、ミュージカルをはじめとする大衆文化だけではなく、ベトナム戦争の歴史やベトナム文化など様々な視点から『ミス・サイゴン』が作られた文化・歴史・社会的背景を読み解いた。 2)『「リトルサイゴン」』:過去10年間に蓄積してきたベトナム系難民文化研究を基礎に、当該分野に関連する芸術作品を取り上げ、文化・歴史的文脈から分析を行った研究書である。当該分野における包括的研究は本邦初であり、アメリカにおいてもまだ数少ない。本書では、小説、映像、グラフィックノベルという3つのジャンルを横断的に論じることで、ベトナム系難民文化とリトルサイゴンと呼ばれる難民社会の関係を中心に論じた。 3)「難民母娘の自伝的語り」:作家ラン・カオが娘のハーラン・マーガレット・ヴァン・カオとともに著した自伝を通じて、ベトナム系難民母娘が抱える文化・社会的葛藤を家族という文脈から分析し、これをアジア系アメリカ文学会にて口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去3年間の研究成果をまとめ、単著『『ミス・サイゴン』の世界―戦禍のベトナムをくぐり抜けて』、単著『「リトルサイゴン」―ベトナム系アメリカ文化の現在』として出版した。以上のことから、研究成果の公表は予定通りに進んだ。 一方で、コロナ感染症によるパンデミックの影響を受け、2020年6月に予定していたベトナム系アメリカ人研究者の日本での講演・ワークショップ等を中止せざるを得ない状況となった。結果として、今後の研究に若干の遅れが生じた。 反面、コロナ禍において、オンラインによる読書会やセミナーに参加する機会が増えた。とくに Lan Cao と Harlan Margaret Van Cao の共著 Family in Six Tones の刊行時に催されたセミナーに複数回参加したことで、新たな研究の指針を得た。そこで得られた知見等は、アジア系アメリカ文学会第142回例会における研究発表にて報告した。 総じて、2020年度においては、コロナ禍という厳しい制約があるなか、成果発表を中心におおむね順調に研究は進んだ。また、予定していたフィールドワークの実施はできなかったものの、オンラインを利用することで、新しい研究も一程度進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も2020年度に続き、コロナ感染症によるパンデミックの影響から、本研究にて予定していたベトナム系研究者の日本への招聘や自らの海外でのフィールドワーク実施が困難である状況に変わりない。そのため、現在のところ研究予定・計画の修正を余儀なくされている。 一方で、オンラインを活用したセミナー等参加により、これまでにない研究機会が得られるようになったことから、2021年度にもオンライン中心の研究活動を進める予定である。 以下、現在具体的に進めている計画を列挙する。 1) Lan Cao と Harlan Margaret Van Cao の共著 Family in Six Tones を例に、ベトナム戦争がもたらした文化の越境が、ベトナム系難民第2世代に与える影響をより若い世代の作品から読み取る研究。2) Family in Six Tones については、現在翻訳を進めており、本年度中に翻訳権の取得・出版を目指す。3)アメリカ学会第55回年次大会における分科会において、ベトナム系難民メディア芸術家 Viet Le の映像作品について、研究報告の予定。4)アジア系アメリカ文学会第21回フォーラムにおいて、ベトナム系難民作家ヴェト・タン・ウェンの小説『シンパサイザー』に関する研究を招待発表の予定。5)アジア系アメリカ文学会より刊行予定の『アジア系アメリカ文学研究の新地平―トランスボーダー・アジア系文学研究にむけて(仮題)』に論文「ヴェトナム系アメリカ人の文学(仮題)」を掲載予定。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ感染症による未曾有のパンデミックの影響から、海外研究者の日本への招聘が中止となった。また、自らの海外におけるフィールドワーク実施も断念せざるを得なかった。以上のことから、予定していた出張等に関する予算消化ができなかった。2021年度においても、パンデミックの影響は引き続き大きく、前年度同様の制約が存在することから、予算項目の振替を必要としている。具体的には、出張等に代えて、研究関連分野資料の購入、翻訳権取得等に資金を振り向ける。また、コロナ禍において、研究遂行におけるオンライン活用は以前にも増しての重要となってきている。そのため、PCおよびIT関連機器やサブスクリプション・サービス等へ資金を振り向け、オンラインによる研究成果の公表・発信に努めることとする。
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