2018 Fiscal Year Research-status Report
ロシア・ネオ・アヴァンギャルド文学の美的原理とタイポロジー
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18K00452
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
Grecko Valerij 神戸大学, 国際文化学部, 非常勤講師 (50437456)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド / ロシア芸術 / ロシア現代詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭の芸術に世界規模で影響を与えたロシア・アヴァンギャルド運動は、ロシア革命後ソ連当局によって暴力的に活動を阻止され、その後はごく小規模に非公式な形でしか存在しなかった。ソ連崩壊後、政治的抑圧から解放されて、ロシア・アヴァンギャルドの後継を自認するネオ・アヴァンギャルド芸術運動が始まり、急速に発展して、非常に興味深い活動を展開している。本研究の目的は、ネオ・アヴァンギャルドの多様な芸術活動のうち、特に文学に焦点を当て、①新旧アヴァンギャルドの歴史的・美的関係と、②ネオ・アヴァンギャルドに特徴的な美的形式を明らかにした上で、③多岐にわたるネオ・アヴァンギャルド芸術活動の類型化を試みることである。 2018年度の課題は、個別の事例を分析して、新旧アヴァンギャルドをつなぐ部分を明らかにし、歴史的アヴァンギャルドの芸術実践を支える美的理論のうち、ネオ・アヴァンギャルドに受け継がれたものを確定することだった。具体的には、歴史的アヴァンギャルドとしてA. クルチョーヌィフ、ネオ・アヴァンギャルドとして非公式芸術家集団リアノゾヴォ・グループ(特にV. ニクラーソフとJ. サトゥノフスキー)に注目し、それぞれの文学作品(主に詩)を比較・分析した結果、歴史的アヴァンギャルドからネオ・アヴァンギャルドに受け継がれている美的原理はミニマリズムとプリミティヴィズムであることが明らかになった。また、多言語性に関しては、歴史的アヴァンギャルドにおいては美的・遊戯的に使われているのに対し、ネオ・アヴァンギャルドではアイデンティティを表現する手段であり、社会問題と深く結びついている。これらの分析に際しては、Y.ロートマンの文化記号論が非常に有効であることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個別の事例を分析して、新旧アヴァンギャルドをつなぐ部分を明らかにし、歴史的アヴァンギャルドの芸術実践を支える美的理論のうち、ネオ・アヴァンギャルドに受け継がれたものを確定するという作業は、計画通り順調に進捗している。研究成果は国際会議等で発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、ネオ・アヴァンギャルドの文学テクストを文体・形式の面から分析し、その美的原理を明らかにした上で、歴史的アヴァンギャルドから受け継がれたものと新たに作り出されたものとを区別する。特に、言語実験、ビジュアル・ポエトリー、マルチメディア的パフォーマンス、ミニマリズム、多言語主義について分析する。 2020年度も引き続き、ネオ・アヴァンギャルドの文学テクストを文体・形式の面から分析し、歴史的アヴァンギャルドから受け継がれたものと新たに作り出されたものとを区別する。ネオ・アヴァンギャルドが他の芸術的潮流、特にモスクワ・コンセプチュアリズムから受けた影響について考察する。 2021年度は、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践をメタ・レベルで類型化することを試みる。具体的には、記号論的三分類(Ch. モリス)に基づき、芸術実践という記号論的現象を①意味論的な領域(言葉の意味が重要)、②統語論的な領域(語順やテクストの配置が重要)、③語用論的な領域(パフォーマンスが重要)の3つの観点から分析することによって、この3つの領域がどのようなバランスをとり、どの領域に最も重点が置かれているかを明らかにする。 研究期間全体を通じ、分析にあたっては、アヴァンギャルド芸術の専門家であるコルネリア・イーチン教授(ベオグラード大学)、ゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学)、ロシア現代詩の専門家であるヘンリーケ・シュタール教授(トリーア大学)、記号論の専門家であるペーター・トーロップ教授(タルトゥ大学)、カ-ル・アイマーマッハー教授(ボッフム大学)らと意見交換を行う。研究成果は適宜、国際会議・学会等で発表し、最終的には論文にまとめて、学会誌等に発表する。
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