2021 Fiscal Year Research-status Report
ロシア・ネオ・アヴァンギャルド文学の美的原理とタイポロジー
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18K00452
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
Grecko Valerij 東京大学, 教養学部, 特任准教授 (50437456)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド / ロシア芸術 / ロシア現代詩 / モスクワ・コンセプチュアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭の芸術に世界規模で影響を与えたロシア・アヴァンギャルド運動は、ロシア革命後ソ連当局によって暴力的に活動を阻止され、その後はごく小規模に非公式な形でしか存在しなかった。ソ連崩壊後、政治的抑圧から解放されて、ロシア・アヴァンギャルドの後継を自認するネオ・アヴァンギャルド芸術運動が始まり、急速に発展して、非常に興味深い活動を展開している。本研究の目的は、ネオ・アヴァンギャルドの多様な芸術活動のうち、特に文学に焦点を当て、①新旧アヴァンギャルドの歴史的・美的関係と、②ネオ・アヴァンギャルドに特徴的な美的形式を明らかにした上で、③多岐にわたるネオ・アヴァンギャルド芸術活動の類型化を試みることである。 2021年度は、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践をメタ・レベルで類型化することが課題だった。具体的には、Ch. モリスの記号論的三分類と、それを芸術に応用したJ. ロートマンの理論に基づき、芸術実践という記号論的現象を①意味論的な領域(言葉の意味が重要)、②統語論的な領域(語順やテクストの配置が重要)、③語用論的な領域(パフォーマンスが重要)の3つの観点から分析することによって、この3つの領域がどのようなバランスをとり、どの領域に最も重点が置かれているかを明らかにすることを試みた。特に、ソ連末期にネオ・アヴァンギャルドの詩人たちが政治的なメッセージを送るために使った戦略に注目した結果、次のようなことが明らかになった。すなわち、政治的なメッセージは本来、詩の内容(意味論的な領域)に関わるものだが、検閲等、当局からの抑圧に対抗するため、語用論的な方策によってカモフラージュされている(たとえば、詩人は無知で愚かであるかのようにふるまったり、国家への忠誠心を過剰に表現したりする)。このような戦略は、モスクワ・コンセプチュアリズムに典型的なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症パンデミックにより2021年度も海外渡航が困難になり、計画していた海外での研究活動を行うことができなかったため。具体的には、海外の研究機関で資料収集を行うことができず、研究発表を予定していた国際会議("Juri Lotman's Semiosphere"、タルトゥ)も、参加をキャンセルせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も前年度に引き続き、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践をメタ・レベルで類型化することを試みる。2022年度は、現代のネオ・アヴァンギャルド詩人が使用しているポストモダニズムの戦略について考察する。ロシアの哲学者ミハイル・エプシュテインが提唱した「ハイパーオーサーシップ」の概念(ひとりの作者が複数のアイデンティティのもとに文学作品を創作し、読者を混乱させ、故意に誤った理解へと導く)を導入し、ネオ・アヴァンギャルドの詩人たちの作品を分析する。また、いわゆる「偽翻訳」(実際には自分が創作した作品であるにもかかわらず、誰か別の人の作品を翻訳したかに見せかけて発表する)の事例も取り上げて、語用論的・文学理論的な観点から分析する。 抽象的に分析・考察する作業が中心となるため、記号論の専門家の助言が不可欠であり、ヘンリーケ・シュタール教授(トリーア大学)、カ-ル・アイマーマッハー教授(ボッフム大学)らと意見交換を行う。海外渡航が可能であれば、ベオグラード大学で2022年9月に開催予定の国際会議に参加して、研究発表を行う。研究成果は論文にもまとめる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症パンデミックによって前年度に引き続き2021年度も海外渡航が困難になり、外国出張がまったくできなかったため、旅費や資料調査に必要な費用(専門知識の提供に対する謝金)等が未使用になった。 2022年度は海外渡航が可能になり次第、ドイツで資料調査を行う。(本来はロシアで資料調査を行う必要があるが、ウクライナとの戦争のために渡航は困難だと予想される。)2022年9月に国際学会に参加するためにベオグラード大学(セルビア)を訪問する。
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