2022 Fiscal Year Research-status Report
ロシア・ネオ・アヴァンギャルド文学の美的原理とタイポロジー
Project/Area Number |
18K00452
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
Grecko Valerij 東京大学, 教養学部, 特任准教授 (50437456)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | アヴァンギャルド / ロシア芸術 / ロシア現代詩 / モスクワ・コンセプチュアリズム / ハイパー・オーサーシップ / 偽翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭の芸術に世界規模で影響を与えたロシア・アヴァンギャルド運動は、ロシア革命後ソ連当局によって暴力的に活動を阻止され、その後はごく小規模に非公式な形でしか存在しなかった。ソ連崩壊後、政治的抑圧から解放されて、ロシア・アヴァンギャルドの後継を自認するネオ・アヴァンギャルド芸術運動が始まり、急速に発展して、非常に興味深い活動を展開している。本研究の目的は、ネオ・アヴァンギャルドの多様な芸術活動のうち、特に文学に焦点を当て、①新旧アヴァンギャルドの歴史的・美的関係と、②ネオ・アヴァンギャルドに特徴的な美的形式を明らかにした上で、③多岐にわたるネオ・アヴァンギャルド芸術活動の類型化を試みることである。 2022年度の課題は2021年度に引き続き、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践をメタ・レベルで類型化することだった。具体的には、現代のネオ・アヴァンギャルド詩人が使用しているポストモダニズムの戦略について考察し、ロシアの哲学者ミハイル・エプシュテインが提唱した「ハイパーオーサーシップ」の概念(ひとりの作者が複数のアイデンティティのもとに文学作品を創作し、読者を混乱させ、故意に誤った理解へと導く)を使って、ネオ・アヴァンギャルドの詩人たちの作品を分析した。また、いわゆる「偽翻訳」(実際には自分が創作した作品であるにもかかわらず、誰か別の人の作品を翻訳したかに見せかけて発表する)の事例も取り上げて、語用論的・文学理論的な観点から分析した。エプシュテインが「ハイパーオーサーシップ」という概念を提唱するきっかけとなった、いわゆる「ヤスサダの事例」(実在しない日本の原爆詩人の作品がアメリカで出版された事例)に関して考察した研究論文を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践に関して、ロシアで資料を収集し、ロシアの研究者と意見交換する予定だったが、ウクライナへの軍事侵攻が続いている状況を考慮してロシアへの渡航を中止したため。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2023年度は、これまでの研究を総括する。すなわち、①ネオ・アヴァンギャルドが歴史的アヴァンギャルドから受け継いだ美的原理について整理し、②ネオ・アヴァンギャルドが新たに生み出した実践と美的原理を確認し、その上で③ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践のこれからの発展について考察する。その際、ポストモダンに特徴的な自意識(分裂したアイデンティティ、主体と客体の関係の変化、オーサーシップ理解の変化など)がどのように反映されているかに注目する。 また、ウクライナへの軍事侵攻という当初は予想もしなかった事態が発生し、ロシア・ネオ・アヴァンギャルド詩人の活動も急激に変化したため、この新しい状況も考慮に入れて研究を進めたい。昨今のロシアの政治状況の急激な変化により、ロシアから国外に脱出した作家・詩人のもつ意味がこれまで以上に重要なものとなった。彼らの作品に「外国語で生きる」という新たな環境がどのような影響を与え、その多言語状況からどのような創造的手法が生み出されているかについても考察する。
|
Causes of Carryover |
ネオ・アヴァンギャルド芸術実践に関して、ロシアでの資料収集と研究者との意見交換を予定していたが、ロシアによるウクライナ侵攻が続く状況を考慮して渡航を見合わせたため、旅費を使い残す結果となった。2023年度もロシアへの渡航が困難である場合は旧ソ連で安全な地域(ジョージアやバルト三国など)や、現在ロシアから一時的に出国している芸術家が滞在している地域に渡航し、資料収集や意見交換を行う。
|