2023 Fiscal Year Annual Research Report
Aesthetic principles and typology of Russian neo-avant-garde literature
Project/Area Number |
18K00452
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
Grecko Valerij 東京大学, 教養学部, 特任准教授 (50437456)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド / ロシア芸術 / ロシア現代詩 / 異化 / 事実の文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭の芸術に世界規模で影響を与えたロシア・アヴァンギャルド運動は、ロシア革命後ソ連当局によって暴力的に活動を阻止され、その後はごく小規模に非公式な形でしか存在しなかった。ソ連崩壊後、政治的抑圧から解放されて、ロシア・アヴァンギャルドの後継を自認するネオ・アヴァンギャルド芸術運動が始まり、急速に発展して、非常に興味深い活動を展開している。本研究の目的は、ネオ・アヴァンギャルドの多様な芸術活動のうち、特に文学に焦点を当て、①新旧アヴァンギャルドの歴史的・美的関係と、②ネオ・アヴァンギャルドに特徴的な美的形式を明らかにした上で、③多岐にわたるネオ・アヴァンギャルド芸術活動の類型化を試みることである。 2023年度の課題は2022年度に引き続き、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践をメタ・レベルで類型化することだった。具体的には、ネオ・アヴァンギャルドの芸術家たちが創作に際して特に注目したロシア・フォルマリズムの理論や概念を点検し、1)自由で実験的な芸術実践に結びついている「異化」の原理と、2)事実関係を重視した記録に近い叙述を求める「事実の文学」の原理の、両極にあるように見えるふたつの原理をネオ・アヴァンギャルドの芸術家たちがどのように用いているかを分析・考察した。その結果、ウクライナへの軍事侵攻が続く現在の状況において、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術家たちは戦争というアクチュアルな政治状況を事実に即して表現しようとしながらも、音声的・視覚的・パフォーマンス的に「異化」された芸術実験を行っていることが明らかになった。すなわち、「異化」と「事実の文学」という古い二項対立が現代芸術において克服され、個々の芸術実践がどちらかの原理に基づくものとして分類されるのではなく、混合された形式となっているのである。この研究成果を日本ロシア文学会において発表した。
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