2022 Fiscal Year Research-status Report
再統一後のベルリンにおけるナチズムとホロコーストの記憶の空間表象
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18K00475
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
安川 晴基 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (60581139)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 想起の文化 / 文化的記憶 / ドイツ / ナチズム / ホロコースト / 記念碑 / ミュージアム / パブリックアート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、壁崩壊後に記憶の景観が大きく書き換えられているベルリンのトポグラフィーに着目し、今日のドイツの「想起の文化」の諸相を詳らかにする。「想起の文化」とは、ナチズムの過去を自己批判的に想起し、その負の記憶を、今日の連邦共和国ならびにEUの基本的価値観(民主主義・法治国家・人権擁護)を支える資源に転換しようとする政治的・社会的・文化的な想起の営みの総称である。この営みは、1980年代に批判的市民による下からの想起の運動として輪郭を現しはじめたが、再統一後の今日、連邦共和国のさまざま次元で広く実践されている。 本研究は、集合的記憶を支える空間的枠組み(都市空間における記憶の空間的メディア)に着目する。1990年代以降、ベルリンには、ナチズムとその犯罪をテーマとする数々の歴史展示施設、公的記念碑、パブリックアートなどが誕生した。それらは、自国の犯罪的過去を公共空間で想起させるという特殊な課題に応えるべく、革新的な方法を取り入れている。それらの空間的メディアを生み出すにあたり、どのような人々が担い手となったのか、また、それらの空間メディアが表象している過去が、現在のどのような視座を反映しているかを調べている。 2022年度は、当初の計画では、ドイツでフィールドワークを行う予定だった。しかし、新型コロナウィルス感染拡大による制限のため、前年度に引き続き、渡航を延期せざるをえなかった。それゆえ、2022年度はそれまでに収集した資料の整理と分析を行った。そして、本研究の成果を公表するために準備している単行本『想起のトポグラフィー:ホロコーストの記憶と空間実践(仮題)』の執筆作業に専念した。具体的には、同書の第6章「『周辺』の試み」と第7章「想起のプロジェクト『躓きの石』」をまとめた。また、本研究の理論的前提をなす「文化的記憶」のコンセプトについて概説した論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に述べたとおり、2022年度は、新型コロナウィルス感染拡大のため、ドイツでのフィールドワークを実施することができなかった。そのため資料の収集にやや遅れが生じている。しかし、その一方で、本研究の成果を発表するために準備中の単行本『想起のトポグラフィー:ホロコーストの記憶と空間実践(仮題)』(岩波書店から刊行予定)に関しては、第6章に相当する、ベルリンの諸々の「脱中心的記念碑」に関する記述と、第7章に相当する「躓きの石」に関する記述をまとめた。また、本研究は、ドイツの文化学者アライダ・アスマンとヤン・アスマンの提唱した「文化的記憶」の概念を理論的支柱としている。本研究に密接に関連する作業として、ヤン・アスマンの主著の一つである『文化的記憶』 (福村出版から刊行予定)の翻訳を進め、「文化的記憶」のコンセプトに関する詳細な解説を執筆した。これは「文化的記憶」のコンセプトの特徴と意義を、人文学における「集合的記憶」論の系譜に位置づけながら考察したものである。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、新型コロナウィルス感染拡大のため延期せざるをえなかった、ドイツでのフィールドワークを重点的に行う。2度に分けて渡独し、とりわけ、ベルリン、ハンブルク、ヴァイマール、ザールブリュッケンで記念碑とパブリックアートの現地調査を実施し、図書館・資料館で関連文献を収集する。ドイツでのフィールドワークと並行して、これまでの調査結果をまとめて単行本として出版する作業に引き続き取り組む。 さらに、本研究の理論的支柱をなす「文化的記憶」 のコンセプトについても研究を進める。その一環として、ヤ ン・アスマン著『文化的記憶』を、2023年度内に刊行する予定である。目下、初校の作成中である。
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Causes of Carryover |
2022年度にドイツでフィールドワークを実施することを予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大により、海外渡航を延期せざるを得なかった。 (使用計画) 2023年度は、ドイツでのフィールドワークを再開し、ベルリン、ハンブルク、ヴァイマール、ザールブリュッケンで記念碑の実地踏査と資料収集を行いたい。その旅費に前年度の残余分を充当する。
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