2020 Fiscal Year Research-status Report
啓蒙思想における「異常者たち」―「去勢者たち」をめぐる文学的哲学的総合研究
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18K00489
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
桑瀬 章二郎 立教大学, 文学部, 教授 (10340465)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | モンテスキュー / ヴォルテール / ルソー / 啓蒙思想 / セクシュアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年は、令和元年段階で明確化した研究計画の全体像をもとに、その完成に向けた作業を進めた。その計画の全体像とは次のようなものであった。①「宦官」の表象の象徴例としてモンテスキューの『ペルシア人の手紙』の分析から出発し、②17世紀まで遡るかたちで啓蒙期の「カストラート」論を分析した後、③いわゆる歴史叙述の検討から「去勢者たち」をめぐる啓蒙思想における歴史的記述を再検討し、④ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析へと進み、⑤最後に①~④を18世紀フランスの代表的思想家の生/性の表象(特に伝記的言説と自伝的著作に注目する)と関係づける、というものであった。 その作業のうち、③と⑤に関して、以下のように研究を深化させた。 モンテスキューについては、『ペルシア人の手紙』における「宦官」像から『法の精神』における「宦官」像への変化と、その変化の背後にある思想的深化について調査した。『法の精神』における名高い政体論は、その政体論に専制のモデルとして中国(とりわけ政体、習俗、歴史、商業等)を導入したことにより、唯一無二のものとなったといえるが、この「転回」によってモンテスキューの「宦官」観がいかに変化したかを明らかにした。 ルソーについては、本研究で鍵となる『エミール』と『告白』についての再検討を進めた。この二作におけるセクシュアリティの問題をめぐっては、ここ数年で注目すべき研究がいくつか発表されたので、それらを参照しつつ作業を進めた。特に『エミール』については、「今、『エミール』を読む困難、『エミール』について語る困難」というタイトルで研究報告を行い、セクシュアリティの問題がいかに重要かを明らかにした ただし、これまでの予定通り、現段階では本格的な(部分的な)研究発表はあえて積極的には行わず、最終的な研究成果としてまとめ、刊行したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
[研究実績の概要]で示した研究計画の全体像中、とりわけ④の作業、すなわち、「ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析」が遅れている。また他のいくつかの箇所でも遅れが出ている。 令和2年は、諸般の事情により、予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなかったためである。当然ながら、国内で利用可能な各種データベースを活用しつつ、可能な限り調査を進めつつあるが、どうしても使い慣れたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での調査に比して効率が悪い。当初購入ではなく閲覧で作業を進める予定にしていた関連文献(特に批評校訂版類)を取り寄せることにしたが、そのための調査等に多大な時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
[現在までの進捗状況]で示したように、昨年度の特異な状況の中、本研究を遂行するために必要となる資料を準備する作業を進めた。そのため、文献類は揃いつつある。仮に予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなくとも、研究計画の全体像を大きく変更することなく、成果としてまとめられると考えている。
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Causes of Carryover |
渡仏、渡米が困難な状況で、予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなかったため。 当初購入ではなく閲覧で作業を進める予定にしていた関連文献(特に批評校訂版)を取り寄せに切り替えたので、文献類は揃いつつある。ここに電子データをも含め、この作業をまずは終える。フランスもしくはアメリカでの研究調査を行えない場合でも、先述の研究計画の全体像に沿う形で、その完成に向けた作業を進める予定である。
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Remarks |
報告者:桑瀬章二郎、講演タイトル:今、『エミール』を読む困難、『エミール』について語る困難、主催:立教大学社会福祉研究所、日時:2021年3月13日
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