2021 Fiscal Year Research-status Report
啓蒙思想における「異常者たち」―「去勢者たち」をめぐる文学的哲学的総合研究
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18K00489
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
桑瀬 章二郎 立教大学, 文学部, 教授 (10340465)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | モンテスキュー / ヴォルテール / ルソー / 啓蒙思想 / セクシュアリティ / 精神分析学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年は、令和2年段階で明確化した研究計画(これについては「現在までの進捗状況」で詳述する)に大きな変更が生じた。 先行研究を読み進めるうちに、これまで戦略的に回避してきたいわゆる精神分析学的分析を避けて通ることはできないとの認識にいたったのである。 歴史叙述の分析において一般に精神分析学は遠ざけられる。とりわけフロイト的な意味での「去勢」「去勢コンプレックス」概念は歴史学的には誤謬とされ、批判的に触れられる程度ですまされる。しかし、こうしたが批判は表層的であることが多い。歴史学的視点からの批判がフロイト以降の概念、特にジャック・ラカンによって発展させられた「去勢」「去勢コンプレックス」概念にまで及ぶことは稀なのである。例えばジャン=クロード・ラザヴェの『フロイトからラカンまで』(2016年)のような「去勢」分析は、本研究にとって精神分析学的視点が有益であるだけでなく、不可欠と理解させてくれた。そのためこうした角度から「去勢」「去勢コンプレックス」概念の再検討を進めた。 ルソーについては、本研究で鍵となる『エミール』と『告白』に関し、以上のような変更を反映させつつ、再検討を進めた。この二作におけるセクシュアリティの問題をめぐって、これまた近年回避される傾向にあった精神分析学的視点からなされた研究をあえて再検証することで、分析を進めたのである。特に『告白』については、「《ラミールの饗宴》の「作者」をめぐって―ルソー『告白』の余白に」というタイトルで研究論文を発表し、(一見反時代的に見えるが)精神分析学的視点から自伝的記述の深層を分析した。 また、これまでの予定通り、現段階では本格的な研究発表を行わず、最終的な研究成果としてまとめて発表したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年は、令和2年段階で明確化した研究計画の全体像をもとに、その完成に向けた作業を進める予定であった。その計画の全体像とは次のようなものであった。①「宦官」の表象の象徴例としてモンテスキューの『ペルシア人の手紙』の分析から出発し、②17世紀まで遡るかたちで啓蒙期の「カストラート」論を分析した後、③いわゆる歴史叙述の検討から「去勢者たち」をめぐる歴史的記述を再検討し、④ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析へと進み、⑤最後に①~④を18世紀フランスの代表的思想家の生/性の表象(特に伝記的言説と自伝的著作に注目する)と関係づける、というものである。 こうした研究計画全体に「研究実績の概要」で説明したような、大幅な変更を加えた。精神分析学的視点を導入するというものである。③~⑤、とりわけ⑤で対象となる「思想家の生/性の表象」に関して、精神分析学的視点は近年の研究で回避される傾向が強いため、それをいわば再導入する作業を行った。すでに完成していた①、②に関しても、こうした視点を反映させ、書き直しの作業を行った。具体例を挙げれば、モンテスキュー研究は、精神分析学的視点の排除が最も顕著な領域である。 こうして進みつつある本研究は、国内ではほとんど扱われることのない対象であり、さらには欧米ではすでに乗り越えられたものとして軽視される傾向にあるため、極めて独創的な成果が得られつつあると確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年の「実施状況報告書」では次のように記した。「研究計画の全体像中、とりわけ④の作業、すなわち、「ビュフォン、ディドロを中心とする博物誌的、生理学的、哲学的視点からの分析」を中心に、全体に遅れが出ているという点である。「研究実績の概要」「現在までの進捗状況」で示したように、研究計画全体に大幅な変更を加えたため、現段階でもやはりまだ遅れが出ている。 令和3年もまた、諸般の事情により、予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなかった。当然ながら、国内で利用可能な各種データベースを活用しつつ、可能な限り調査を進めたが、どうしても使い慣れたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での調査に比して効率が悪い。当初購入ではなく閲覧で作業を進める予定にしていた関連文献(特に新たな批評校訂版が刊行されたルソー関連資料)の取り寄せ、そのための調査等に多大な時間を要した。
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Causes of Carryover |
令和3年もまた、諸般の事情により、予定していたエコール・ノルマル(もしくはコロンビア大学)図書館での集中的な研究調査が行えなかったため。 各種行動制限措置が緩和されつつあるので、状況が許せばこの研究調査を行うために、それが難しければ、令和3年に試みたような資料の取り寄せのために使用する予定である。
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