2018 Fiscal Year Research-status Report
マルセル・プルーストと大衆化の力学:小説の生成過程と受容過程をめぐる表象史研究
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18K00490
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
坂本 浩也 立教大学, 文学部, 教授 (50533436)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小黒 昌文 駒澤大学, 総合教育研究部, 准教授 (50438199)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フランス文学 / プルースト / 失われた時を求めて / 大衆文化 / 視覚文化 / 大衆小説 / 大衆化 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画どおり、初年度は小説『失われた時を求めて』の生成過程における大衆文化・大衆化の役割の検討に取り組んだ。坂本と小黒は、最新の研究動向をめぐって定期的に情報交換をしながら、それぞれがプルーストの作品、草稿ノート、書簡集の索引などを活用して大衆的なものへの言及を調査し、主要な分析対象を限定したうえで幅広い文献収集をおこない、個別の分析に着手した。 大衆文学に着目する坂本は、科学技術をめぐる大衆啓蒙的な言説について、ジュール・ヴェルヌに代表される未来予想小説とプルーストの作品との関係を、同時代の雑誌記事などと対照しつつ再考した成果を発表した。それにくわえ、犯罪行為と犯罪捜査の表象について、文学史上の主要な先行作品(ギリシャ悲劇、ポー、ドストエフスキーなど)をふまえつつ、近年の文化史研究を出発点にして、より広範な資料収集を進めた。 視覚文化をとりあげる小黒は、19世紀末の大衆的な写真技術(スナップショット、連続写真、映画)が実現した可視性とプルーストとの関係に焦点を当てつつ、映像史における「科学の通俗化」(ブリュノ・ベゲ)の射程の検証をはじめるいっぽう、同時代の広告ポスター文化の熱狂にも調査対象を広げて、フランス国立図書館で補完的な資料収集をおこなった(パリ市、2019年3月18日~29日)。 このほか、坂本が立教大学で企画し、司会をつとめる連続公開セミナー「新訳でプルーストを読破する」をつうじて、社会還元をおこなった(全14回のうち第4回から第10回を開催し、第10回に小黒が講師として登壇した)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり、本格的な研究成果をまとめるのは次年度以降になるが、重点的に取り組んだ資料収集によって、問題設定の豊かな可能性を確認し、研究の幅を広げることができた。 予定していた小規模な研究会は、発表予定者との日程調整が難しく、来年度に持ち越すことになったが、すでに2名の発表予定者の業績を検討し、議論の準備を進めている。 連続公開セミナーは、予定どおり開催し、新鮮かつ活発な議論をおこなうことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、予定どおり、『失われた時を求めて』の受容過程における大衆化の本格的な調査に着手しながら、小説の生成過程の検討を継続する。美術作品の大衆化(複製と普及)が小説の生成過程におよぼした役割について、専門家(パリ=ソルボンヌ大学教授、ソフィー・バッシュ氏)の講演会を開催し、公開討論する機会をもうける。 ほかにも、小規模な研究会を企画して国内の専門家を招き、(1)プルーストと科学啓蒙小説、(2)プルーストと文化遺産(教会建築など)について、大衆化の観点から議論をおこなう予定である。
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Causes of Carryover |
小規模な研究会の発表予定者との日程調整がつかなかったため。研究会は次年度に開催する予定である。
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Research Products
(2 results)