2021 Fiscal Year Research-status Report
A study on the early poetical works of poet-thinker Muhammad Iqbal
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18K00504
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松村 耕光 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 名誉教授 (60157352)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イクバール / ウルドゥー詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度においては、南アジアの重要なイスラーム思想家の一人であり、優れたウルドゥー語・ペルシア語詩人でもあったムハンマド・イクバール(Muhammad Iqbal, 1877-1938)の、インド・ナショナリズム、一元論的神秘思想の影響下にあったとされる、1905年のヨーロッパ留学以前の詩作品の文学的、思想的特徴を検討するため、以下のような研究を行った。 (1)イクバールは初期の多くの詩をウルドゥー語雑誌『宝庫(Makhzan)』(1901年4月創刊)に掲載しているが、第1ウルドゥー詩集『鈴の音(Bang-e Dara)』(1924年)掲載時に詩句の削除、追加、改変などを行っている。従来のイクバール研究では『宝庫』のテキストはほとんど考慮されておらず、初期イクバール研究は脆弱な基盤の上に成り立っていると言わざるを得ない。そこで『宝庫』掲載時のテキストと『鈴の音』のテキストとの校合作業を進め、初期詩数篇を和訳、テキストの異同について注記して発表した。 (2)イクバールは多くの初期詩を詩集に収録しなかった。詩集に収録されなかった詩は、彼の詩の愛好者や研究者によって何冊かの捨遺詩集に纏められているのでそれらを参照し、イクバールの初期詩読解を進めた。 (3)当時の文学的・思想的潮流の特徴を探るため、雑誌『宝庫』の内容分析を行った。 (4)イクバールに大きな影響を与えた、ウルドゥー近代詩の推進者である詩人アルターフ・フサイン・ハーリー(Altaf Husain Hali, 1837-1914)の詩業について確認作業を行い、彼の代表的なガザル(ghazal、定型抒情詩)を和訳、発表した。 (5)イクバールの文学・思想の形成に大きな影響を与えたと考えられる、西欧や東洋の文学者、思想家などの検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
収集済みの資料に関しては、イクバール初期詩作品の読解作業をほぼ予定通りに進めことができたと言える。イクバールが主要な詩の発表場所としていたウルドゥー語雑誌『宝庫』の1901年から1905年までのバックナンバーの内容確認もかなり行うことができた。収集した資料によって、当時の文学・思想状況に関する知見も或る程度得ることができた。しかし、新型コロナウイルス感染症蔓延のため、パキスタン、インドに出張し、現地の図書館で以下の資料の内容を確認することができず、初期詩作品のテキスト研究や時代背景の調査を十分に進めることができなかった。 (1)雑誌『宝庫』の現在まで未確認のバックナンバー (2)19世紀末から1905年にかけて出版されていた主要なウルドゥー語雑誌 (3)イスラーム擁護協会(Anjuman-e Himayat-e Islam)の年次大会記録(イクバールはこの協会の年次大会で重要な詩を発表している) また、イクバールに大きな思想的影響を及ぼしたと考えられる、イクバールの恩師、イギリス人東洋学者トーマス・アーノルド(Thomas Arnold, 1864-1930)が残した文書類を調査するため、イギリスに出張する予定であったが、これも上記の理由により、中止せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)収集済みのウルドゥー語雑誌『宝庫』に掲載されたイクバールの詩のテキストと詩集『鈴の音』所収のテキストとの校合作業を続行する。 (2)イクバール捨遺詩集に収められた詩の読解を行い、イクバール初期詩の全体像を把握する。 (3)雑誌『宝庫』に掲載された、イクバール以外の詩人が作った詩の文学的・思想的傾向の検討を行い、イクバールの詩と比較・検討する。 現地調査が可能となれば、現地において、現在まで確認できていない『宝庫』のバックナンバー、『宝庫』以外のウルドゥー語雑誌のバックナンバー、イスラーム擁護協会の年次報告書などの内容確認を行う。雑誌『宝庫』の編集者アブドゥル・カーディル(Abd al-Qadir, 1874-1950)やイクバールの恩師トーマス・アーノルドに関する情報の収集も行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、パキスタン、インド、イギリスにおいて現地調査を行うことができなかった。また、現地で研究資料(単行本、雑誌等)を購入することができず、次年度使用額が生じた。 海外出張が可能となれば、海外出張を行い、現地において資料や情報の収集を行う予定である。 当面、日本からでも収集可能な資料を収集することに努める。
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