2018 Fiscal Year Research-status Report
Southern Literature in the U.S. and Immigrants: A Prospectus for Coexisting and Assimilating with Cultural Others
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18K00517
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
樋渡 真理子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (00309882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | サザンルネサンス以降のアメリカ南部文学 / 南部文学とアジア系移民表象 / 移民越境の歴史と同化 / ヘイトの歴史と異文化理解 / アジア系のディアスポラ / ベトナム移民とアメリカ南部 / ニュー・サザン・スタディーズ / ミシシッピデルタと移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、アメリカでもとりわけ保守的だと言われる南部における文学形式において、移民をはじめとする「文化的他者」である社会的・経済的弱者がどのように描かれてきたかについて考察し、アメリカ文化における移民越境の歴史と同化の可能性を探ることが目的である。また、本研究は移民文学の中でもとりわけアジア系移民に注目することにより、文学研究と社会学的研究を融合させ、これまで研究されることのなかったアジア系移民とアメリカ南部を繋ぐ新しい文学研究の方向性を示すものである。研究初年度はアメリカ南部文学の研究動向に関して主に2005年から現在に至るまでの最新の書籍類を収集し、南部文学を巡る思想的言説を時系列に整理できたことが大きな収穫であった。主に、初年度の活動状況は以下の4つが挙げられる。 1)海外の研究者との交流 在福岡アメリカ領事館がスポンサーとなって九州アメリカ文学会が開催したサウスイーストミズーリ大学のクリス・リーガー氏による講演会とその後のディスカッションにおいて、「エコロジー」と「サザン・パストラル」という観点から南部文学ではあまり論じられることのなかった作家を中心に、文学史の枠から外された作家と「南部例外主義」について知見を深めた。 2)アメリカ南部文学に関する資料収集と研究―「グローバル・サウス」以降のアメリカ南部文学について時系列に書籍類を整理し、研究する機会を得た。 3)『アメリカン・モダニズムと大衆文学』(金星堂)に「フォークナー再売り出しー『ポータブル・フォークナー』成功の意味」が収録され、出版された。 4)『フォークナー』第20号においてフランスにおけるフォークナー研究の第一人者アンドレ・ブレイカスタンによるフォークナー評伝の書評が掲載された。この仕事を通じて外国人がアメリカ南部文学を研究することの意義及び自身の研究の今後の方向性について再考する機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究を進めて行くうちに、アメリカ南部における移民文学及び移民を表象した文学形式の文献調査にかなりの時間を要した。また、アメリカ南部におけるアフリカ系アメリカ人とアジア系移民との共存についてミシシッピデルタにおける生活に関する文献を中心として読み進めて行く作業に思ったよりもかなりの時間をかけた。しかし、これは研究の遅れというよりはむしろ研究を続けて行く上で有益な作業であった。今年はアフリカ系アメリカ人作家がアメリカ南部をどのように描いているかに焦点をあてて、従来文学史で描かれている南部経験の枠をこえ、ジェンダーと階級と人種の多様性を南部文学研究に反映させることによって、アメリカ南部小説におけるマイノリティ表象の事例を多く分析し、研究の目的である移民表象と共同体のあり方について貢献したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度から来年の初頭にかけて国内で行う研究に関しては以下の3つの項目を中心に研究計画を立てている。 1)4月から7月にかけては、ベトナム系アメリカ人作家モニーク・トゥルンの『ビター・イン・ザ・マウス』において表象されるアメリカ南部とベトナム戦争の余波について論文にまとめる。そのさい、ベトナム系作家であるラン・カオの小説や移民作家ハ・ジンのエッセイで描かれる南部体験を取り入れながらアメリカ南部におけるアジア系移民の異文化体験について扱う。 2)4月から12月末にかけてトニ・モリスンの小説群においてアメリカ南部がどのように描かれているかを精査する。アメリカ南部文学というジャンルが、白人対非白人という図式だけでは捉えきれない多様性を含んでいることを研究の出発点としているが、アフリカ系アメリカ人の南部での経験を集団的記憶として描くモリスンの小説を論じることはこの研究において欠かすことのできない視座である。アメリカのヘイトの歴史に対する理解を深めるためにもモリスンの小説で表されている南部を論じることとしたい。 3)年末から3月にかけて2020年5月に開催される九州アメリカ文学会大会において「サザンルネサンス以降の南部文学とニュー・サザンスタディズ (仮題)」に関するシンポジウムのオーガナイザー兼パネリストとして報告を予定している。現在、ジョージア大学出版局が中心となってニュー・サザンスタディーズという、文学のみならず社会学的で包括的な「南部文学見直し運動」が起きていることにより、南部について書かれていながら埋もれた小説が多々掘り起こされてきている。その流れと将来性について論じることで、従来の文学史の枠を超えた小説というジャンルの可能性を提示する。
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Causes of Carryover |
研究当初は、研究1年目にアメリカ南部に出張し、資料収集を行い、2年目にもニュー・オーリンズ近辺へ資料収集をしたのち、3年目に研究成果をまとめあげるという心づもりであった。研究開始初年度である2018年(平成30年)においては、ミシシッピ大学とルイジアナ州立大学の図書館に所蔵されている移民の移住データや中国系移民のデルタ地方における移住の歴史を扱った貴重なドキュメンタリー資料を現地に赴いて研究することを計画していた。このような計画に基づいて海外出張して現地に滞在する時間を計上した結果、本研究の1年目の研究費の必要経費は、2年目と3年目よりも多く見積もっていた。 実際に研究を進めて行くうちに南部を舞台にしたさまざまな人種的背景の作家による小説が次々に出版されている現状を知り、海外出張する前にまず昨今のアメリカ小説の流れと移民文学について更に研究を積み重ねたいと思い、国内で資料収集と研究を行った。そのため、本来は研究初年度に使うはずの出張費を次年度に持ち越す事になった。
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