2020 Fiscal Year Research-status Report
Southern Literature in the U.S. and Immigrants: A Prospectus for Coexisting and Assimilating with Cultural Others
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18K00517
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
樋渡 真理子 福岡大学, 人文学部, 准教授 (00309882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | サザンルネサンス以降のアメリカ文学 / 南部文学とアジア系移民表象 / 南部における人種のエコロジー / 人身売買(human trafficking) / アジア系のディアスポラ / ベトナム移民とアメリカ南部 / 南部のカジノビジネスと労働力のグローバル化 / ミシシッピ深南部デルタの中国人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、アメリカでもとりわけ保守的だと言われる南部における文学形式において、移民をはじめとする「文化的他者」である社会的・経済的弱者がどのように描かれてきたかについて考察し、アメリカ文化における移民越境の歴史と同化の可能性を探ることが目的である。昨年に引き続き、本研究3年目はコロナ禍により海外での資料収集や学会への参加はできなかったものの、オンラインで実施された国際学会に参加することにより、アメリカに滞在していた時よりもはるかに多くの学術的な発表や思想に触れ、知的な刺激を受けた充実した一年となった。以下が研究実績である。
1)論文の出版 『フォークナー』第22号に「トニ・モリソンの『ホーム』における1950年代南部」が出版された。 2)国際学会発表(オンライン)テキサス州ダラスで2月に予定されていたNational Association of African American Studies and Affiliatesの国際学会がオンラインによる学会実施に切り替わった。白人南部作家のCynthia Shearerの小説におけるミシシッピデルタ地方に住む中国系移民の表象を通じてアメリカ南部における中国系移民の移住の歴史を精査し、提示するとともに、モーリタニアから南部に移住してきたまた別の登場人物が抱える祖国の奴隷制度や豊かな音楽の歴史を辿ることでアメリカ南部と世界を繋ぐ文学的想像力について論じた。 3)国際学会発行モノグラフの出版 前年テキサス州ダラスにて発表した原稿をまとめ直したものが2021年2月に出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年5月に予定されていた九州アメリカ文学会におけるシンポジウムがコロナ禍で中止されたことに伴い、シンポジウムのテーマは引き続き2021年のアメリカ文学会全国大会に持ち越されることになった。当初予定していたタイムラインよりも一つの企画にかける時間を長く取ることになったため、これまで気がつかなかった新しい視点、例えば、エコロジーとしての人種の捉え方や、南部文学という枠に収まりきれない作家に関する発見など、研究の視座がどんどん広がっていくことにより、当初予定していた研究のスケジュールが変更になったり、研究対象が増えていく、という状況である。ただし、研究ペースは遅いものの、前年と同様に、そのことは決して研究が前進していない、ということを付記しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年3月あたりから2021年にかけて多くの国際学会や海外での講演会がzoomによるウェビナーに切り替わったことにより、国内にいながら海外の研究者との知己を得、また、南部文学やブラックライブズマター、アジア人差別の社会問題に関する多くの学術的知見を得ることができた。引き続き積極的にオンラインでの国際学会に参加する予定である。7月にはミシシッピ大学のアウトリーチプログラムが主催している第47回フォークナーとヨクナパトーファ学会に参加を予定している。今回はフォークナーのみならず、南部女性作家のユードラ・ウェルティ、アフリカ系アメリカ人作家リチャード・ライトに関する学会発表が企画されており、アメリカ南部における南部表象と文化理解をより包括的な形で実施されることになっている。また、ヨーロッパを中心とした若手のフォークナー研究者の交流の場でもある国際学会Faulkner Studies in the U.K.がコーマック・マッカーシーとフォークナーに関する学会を開催するのでこちらにも参加をし、最新の研究動向を知り、研究者との交流を図りたい。 2021年10月には日本アメリカ文学会の全国大会でシンポジウムのオーガナイザー兼発表者としてサザン・ルネサンス以降のアメリカ南部文学の批評の動向をアジア系アメリカ人作家の小説を交えて論じる予定である。より包括的な南部文学における人種表象をニュー・サザンスタディーズの観点から論じ、そこで得たフィードバックを参考にしながら将来的には論考としてまとめたい。 2022年2月にはテキサス州ダラスで開催予定の国際学会への発表に応募し、アメリカ南部文学とアジア系アメリカ人表象のインターセクショナリティに関する学会発表を予定している。また、発表した原稿は論文としてまとめ、同学会のモノグラフシリーズに投稿するとともに、同学会の学会誌への投稿も予定している。
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Causes of Carryover |
本研究2年目と3年目に多めに計上していた資料収集のための海外出張がコロナ禍で海外渡航が不可能となったため、計上していた予算は執行せず、代わりにオンラインに変更になった国際学会に参加した。その際の学会参加費は無料である場合が多かったため、予算に余剰が生じている。 また、コロナ禍でキャンパスが閉鎖された時期もあり、学内業務のほとんどを自宅で行ったこと、施設で暮らす基礎疾患を抱えた父の精神的サポートとなれるように私自身も出来る限り感染リスクを減らすためにこの1年間ほぼ一人で時間を過ごしてきたこと、などの理由で研究に必要な書籍類の購入などの決済の手続きを関係部署にて行うことを保留してきた。(実際にはこの一年で研究に必要な書籍類の購入は行っており、研究は進んでいる)。
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Remarks |
人文学部英語学科 准教授 樋渡真理子
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