2018 Fiscal Year Research-status Report
A Pragmatic Study on the Correspondence beween the Content of Discourse and Anaphoric Expressions, with Special Reference to the Levels of Information Sharing among Dialogue Participants
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18K00542
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
西田 光一 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (80326454)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 定型表現 / 照応 / 代用表現 / 指示の同一性 / 意味の同一性 / 談話の内容 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は次の2本の論文を発表した。 (1) An anaphora-based review of the grammar/pragmatics division of labor. BLS44, 213-227. (2)「談話内のことわざの代用機能とグライスの協調の原理の再評価」『語用論研究』20, 41-61. (1)は、英語の定名詞句の同一指示用法を題材に、文法と語用論の分業の在り方を議論し、Ariel 2010, 2017の言う意味で、文法は記号化の規則であり、語用論は推論の導き方であるという区分を発展させたものである。特に記述内容の豊かな定名詞句が前方照応的に使われる条件を明らかにし、そのような名詞句とことわざの談話機能の共通点を指摘した。ことわざは、先行文脈の主題の指示対象に類似の意味の名詞句を導入する機能があり、それを照応の観点から分析することを提案した。さらに、文法と語用論はともに文法的な慣習に作用するが、文法の関与が不完全なところに語用論が関与するという一般化を導いた。 (2)は、日本語のことわざを題材に、文字通りの意味では語用論的説明に合致しない定型表現が談話で生産的に使われる理由を解明した。ことわざは先行文脈を評価し要約する機能を担うが、これはことわざが代名詞に類した代用表現であり、先行文脈から内容を受け取ることに由来する。代名詞が名詞句の代わりとして代-名詞であるように、ことわざは先行文脈の代わりとして代-談話表現と言えることを示した。この議論を英語の例に応用し、2019年11月にアメリカのAMPRA 4で、"Proverbs as proforms of evaluative utterances"と題し、研究発表した。これまでの私の照応研究は指示の同一性が中心だったが、意味の同一性の観点から、文法と語用論における照応の役割がより深く理解できてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基本的に当初の計画に基づいて研究を進め、論文を作成している。ただし、指示の同一性の照応に加え、意味の同一性の照応に研究の射程を広げているため、読み込む文献の量と範囲が増え、2018年度は書くよりも読む方に優先的に時間を充てた。2019年度も先行研究を正確に理解した上で自分の議論を展開させる。また、一次資料を丹念に収集し、電子化を進める。 談話照応における文法と語用論の分業のしくみは分かってきた。ただ、話し手と聞き手が談話上で同じ指示対象を追跡することから生じる情報共有の度合いは、当初の計画より複雑な数値化が必要なことが見えてきた。各種の照応表現を適切に分類するべく、適切な数値化のモデルを考案することが目下の課題である。 視点用法の定名詞句と再帰代名詞を参考に、照応表現の種類と文体の関係を明らかにする。特に広告で先行詞なしに使われる定名詞句に着目し、現在、調査結果を論文にまとめている。小説、報道、学術論文など各種の文体の特徴が照応表現の選択に集中的に反映させられる理由を解明する。 現在は英語の事例に集中しているが、日本語の事例にも考察を広げる。そのため、英語の人称代名詞と日本語の「彼」などの人を表すことばの比較で論文を書いている段階である。英語と日本語では、文法と語用論の果たす役割の範囲が違い、英語は語用論重視だが、日本語は文法重視という違いが把握されつつある。今後、応用言語学の研究者との研究交流を通じ、成果を英語教育に応用し、照応表現の理解が英文テクストのより深い内容理解に資する要所であることを具体的に示していく。特に、談話の内容と談話上の言語表現の対応を解明する本研究に合致するため、Marsh 2015等を参考に、ことばの内容とことばを等しく教えるという方針のCLILの実践と連動した言語研究を具体化する。この視野のもと、昨年度、所属先のCLIL関係の刊行物に論文を1本発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年6月の香港の第16回国際語用論学会で、"Figurative Expressions in Context as Cases of Identity-of-sense Anaphora"と題し、研究発表が決まっている。この発表では、ことわざなどの定型表現が意味の同一性の照応として使われる理由を明らかにする。特に、数量詞による意味の同一性の照応とことわざの要約機能の共通点を重視する。 2019年度はHalliday and Hasan 1976に立ち返り、意味の同一性の照応をなす数量詞の特徴を深く理解し、その特徴がことわざをはじめ有名な引用句などの定型表現にも見られることを示す。言い換えると、定型表現は一般化を表す点で量化詞的な性質があり、それが基で談話上、意味の同一性の照応をなすことが導かれる。 数量詞の文法に入っている意味の同一性の照応が、談話上の定型表現の要約機能に形を変えて現れるという両者の理解がもたらす理論的展開は極めて大きい。Leech 1983にあるように、従来は文法と語用論が相補的な関係にあるとする立場が多かった。しかし、意味の同一性の照応は数量詞を使った文の構造による文法版と、定型表現を使った談話の構成による語用論版という両方が揃っている。これは、文法と語用論は基本的に同じ文法的な諸慣習を扱うが、手法が違うため、その説明力に得手不得手があるという考えに至る。つまり、文法と語用論は競合的な関係にあり、相補的モデルの対案が出来ることになる。 Grice 1975以後の推論重視の語用論は、文法とは独立した語用論独自の領域を確立しようとしてきた。文法は個別言語により違うが、語用論的な推論は言語の個別性から独立して合理的な人間に共通であるという想定があったと思われる。その成果を活かしつつ、今後は文法と協働、競合して、ことばの合理的な用法を説明する語用論を開発する。
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Causes of Carryover |
昨年度中に本研究計画を学外の研究者2名に評価してもらう計画だったが、予定していた研究者との都合が合わず、他の研究者の選定も進められず今年度に先送りしたため、次年度使用額が発生した。今年度前半に談話照応とコミュニケーション論の研究者2名と日程を調整し、本研究計画の昨年度までの実績と今後の展望を評価してもらい、見直しが必要な個所とさらに進展が見込まれる箇所を洗い出す。
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Research Products
(8 results)