2019 Fiscal Year Research-status Report
A Pragmatic Study on the Correspondence beween the Content of Discourse and Anaphoric Expressions, with Special Reference to the Levels of Information Sharing among Dialogue Participants
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18K00542
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
西田 光一 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (80326454)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 照応表現 / 談話照応 / 人称代名詞 / 対人関係 / 定型表現 / 共通基盤 / 会話の公理 / レジスター |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、英語の代名詞と定名詞句の用法の背後にある話し手と聞き手の関係を、対話での情報共有度か解明することに焦点をおいた。学会誌と共著の専門書に各1本論文を発表した。学会誌論文は招待枠のため査読無だったが、同じ招待枠の執筆者間でピアレビューを実施し書き直して完成させた。共著の中の論文は作成過程で編集者から第1原稿に対する建設的批判を踏まえ書き直して完成させた。 学会誌論文は英語の定名詞句を中心に扱い、定名詞句の広告が宣伝する商品は、不定名詞句や所有格のyourが付いた名詞句の広告が宣伝する商品より高級品に偏ることを実証し、その理由を、特定のコミュニティで了解された指示対象を表すという定冠詞theの特徴から導いた。特に定名詞句の視点用法と広告での非字義的用法に着目し、ここから名詞句の定性と非字義的意味の表現の相関が示唆され、聞き手との共通基盤(common ground)が高く保証された表現を使う限り、話し手はGriceの会話の公理から積極的な意味で逸脱することが認められるという見通しが得られた。この点は2018年度に発表したことわざに関する拙論とあわせ、今後、さらに探究していく。 共著の中の論文は、「代名詞の指示対象から見た対人配慮の日英対照」というタイトルで、全16ページである。ここでは、英語の代名詞と命令文の用法から日本語の配慮表現の見直しを試み、日本語と英語の比較で従来から、よく言及されるハイコンテクストとローコンテクストという二分法を定義しなおす必要があることを論じた。言い換えると、日本語はハイコンテクストだが、英語はローコンテクストであるといった紋切り型の二分法は、各言語の一面しか捉えておらず、配慮表現に関しては日本語は英語より複雑な文法を有し文脈設定的という意味で、ローコンテクストであり、逆に英語は代名詞と命令文の用法ではハイコンテクストと言えることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文内照応に使われる表現は英語では人称代名詞、再帰代名詞、相互代名詞に限られ閉じた語類をなす。ただし、不定名詞句は束縛代名詞が生じる環境に生じるものがあるが、同一指示的ではないので、ここでは別扱いとする。 一方、談話照応に使われる表現は開かれており、多様である。代名詞に加え、定名詞句、不定名詞句があり、さらに通言語的にことわざなどの定型表現が照応的に使われる事実が着目される。現在、文内照応と談話照応の対照的な性質をどう理解すべきか見えてきたところである。文内照応の表現は動詞句の一部となって、文の生成に資する。談話照応の表現は、反対にできるだけ文の構造に関与せずに済む位置、つまり主語位置で使われることが基本である。言い換えると、談話照応の表現はストーリーの生成に資すると言って良い。両者は完全に排他的ではなく、反比例的であり、所有格のように文内照応の性質が強くなれば談話照応の性質は弱くなり、情報提供的な名詞句のように談話照応の性質が強くなれば文内照応の性質は弱くなる関係にあるという知見が得られている。 本研究では、照応表現の中でも談話照応を主に代名詞、定名詞句、不定名詞句を追いかけてきたが、ことわざが代名詞的に使われることに気づいてから一気に射程が広がり、新しい研究の方向も見えてきた。代名詞は先行文脈で言及された指示対象を表すが、ことわざは先行文脈の目的と方向性を表す。ここから、話し手と聞き手の共通基盤(common ground)の共有率という点で談話照応で使える表現の適否が決められることが分かってきた。それに伴い、共通基盤が高い表現を特徴的に使う文脈ではGriceの会話の公理を厳密に守らずに済む理由があることも明らかになってきた。 外的な状況では、コロナウィルスの世界的蔓延により、昨年度末に予定していた海外出張計画が中止になり、今年度も海外学会で発表が計画できないことが懸念される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は3年間の仕上げとなる論文を用意している。コロナウィルスに注意しつつ、研究計画を実行する。談話照応の中でも、情報提供的な特定化の定名詞句に焦点をあて、ここから次の研究計画につなげる射程の広い仮説を構築する。特定化の定名詞句は、談話照応の諸表現の中でも照応表現の性質が弱く、学術文書ではなく、スポーツ記事や芸能ゴシップなどのレジスターで特徴的に使われる。特定化の定名詞句は、できるだけ情報量は軽くせよといった照応表現全般が従うGriceの会話の公理、特に量の公理に従わず、照応表現にして情報量を豊かにできる理由は何か。この問題は形を変え、別のところでも生じる。ことわざなどの定型表現は先行文脈の目的と方向性を表す照応表現として使うことができる。さらに、補文に生じることわざは、主節主語に言及する解釈が認められるため、代名詞的な文内照応の性質も備えている。しかし、ことわざは文字通りには当該文脈とは無関係なことを意味しており、関係あることを言えなどの公理の明白な違反である。 この点を基に、照応表現からGrice以降の語用論に新展開をもたらす可能性が開けてくる。Griceは、公理は守られるべきだが、逆に公理を意図的に違反して会話の含意をもたらす方法もあるとしている。公理は守っても違反しても使い道があるという融通が利くものということになる。だが、違反しても使い道があるならば、公理はいつも違反されて空文化するだけである。いつ、どこで誰を相手に話す場合は、公理を守るか、違反しても使い道があるかという場合分けが必要である。これは自明の問題だが、従来の語用論は、この問題に取り組んでおらず、公理違反の動機も特定していない。会話の公理を違反した照応表現と定型表現が使われるレジスターを綿密に通言語的に調査し、情報(information)の伝達を補完する関心(interest)の共有の研究に進みたい。
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Causes of Carryover |
一昨年度は本研究の評価を得るべく、専門的知識の提供を受けるための謝金を計上していたが、評価を仰ぐべき専門の研究者を絞り込めず、未執行に終わっていた。昨年度は専門が近い研究者の研究会に定期的に参加し、その席で参加者からコメントを受けることから、本研究計画の評価を得ることにした。全国規模の学会よりも、各参加者の研究の途中段階にある研究会での議論の方が、率直で有益なコメントが得られることが多く、実際、一昨年度の未執行分は研究会に参加のための国内旅費に充てた。しかし、昨年度末、アジアの英語を題材に、レジスターと照応表現の関係を調べるために台湾に資料収集の出張を計画していたが、コロナウィルスの感染拡大のため、実施に至らなかった。その分の旅費が未執行に終わったため、今年度に68,436円の繰越額が発生している。今年度も国内外のコロナウィルスの感染状況が気にかかるが、安全で有意義な出張先を選定し、計画的に予算執行を進める。本研究の英語教育への応用可能性も考慮して、関連の専門書を購入する。今年度後半には、謝金により専門的知識を受け、今後の展望を具体的に検討し、成果報告書に盛り込みたい。
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Research Products
(5 results)