2020 Fiscal Year Research-status Report
調音動作の組織化と声道形態の個人差:RtMRIと3D-MRIデータに基づく研究
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18K00548
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
中村 光宏 青山学院大学, 文学部, 教授 (10256787)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 調音動作 / 協調タイミング / 個人差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題における調査項目のひとつである調音動作の構成性を探究するため、リアルタイムMRIデータにおける調音運動の動態観測と、Electromagnetic Articulograph による調音データの観測と解析を遂行した。研究成果の一部は研究論文として公表すると共に、前年度までの調査分析結果も踏まえて、研究発表を行った。 調音動態の観測・分析では鼻音/n/を対象とした。伝統的音声学の接近法に基づく研究によって、例えば、green beansのような単語連続では、gree[m]beansのように、語末/n/が後続する/b/の影響を受け、しばしば[m]として実現されることが分かっている。多くの音声学・音韻論的記述では、同化を引き起こす音に分析の関心が偏っており、同化される音(この場合/n/)については、その実態がほとんど明らかになっていない。本研究では、同化される音/n/に対する舌尖調音の実態を調査分析し、調音動作の構成性について考察を進めた。 本研究の結果、語末/n/に対する舌尖調音が実現されない傾向が観察された。この事実は、調音動作の構成性の観点から、/n/は複数の調音動作で構成されるが、その実現は個別に選択できることを示唆しており、調音動作が個別に選択される証拠と考えられている(Tilsen & Goldstein 2012)。この解釈を本研究結果は支持するものである。一方、本研究では、舌尖調音の実現には個人差があり、完全閉鎖の形成と上昇動作の未実行に大別される範疇的傾向があることも明らかになった。これは、先行研究の結果(舌尖上昇動作は連続的で、中間的調音が観察される)とは異なっており、更なる検討を要するとともに、調音動作で構成される語彙表示が経験によって変化するか、それとも不変かという新たな問題を提起するものである。今後、個人差に関する更なる調査分析が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、2020年度は本研究課題の補助事業期間の最終年度であったが、補助事業期間延長の承認を受け、1年間延長することとなった。延長申請を行った主要な理由は、新型コロナウィルス感染症の発生と感染拡大により、発表申請を予定していた国際学会等が中止・延期され、感染拡大の影響はオンライン授業実施への対応にも及び、本研究課題の最終年度に計画していたことを実現するのが困難になったためである。このような状況であったけれども、小規模ではあったが、補充調査を遂行することができた。最終年度となる2021年度には、これまでの研究成果を総合的にまとめ、本研究課題の目標達成に導いていきたい。このようなことから、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間の延長申請が承認されたことにより、2021年度が本研究課題の補助事業期間の最終年度となった。この2021年度には、これまでの研究成果を総合的にまとめ、本研究課題の目標達成に導いていきたい。 ① 調音動作の個人差:英語の破裂音・摩擦音・接近音の発音には、舌尖を使用する調音(apical articulation)と舌端を使用する調音(laminal articulation)に揺れがあると言われている。先行研究では、このような舌尖調音と舌端調音の選択は,話者内でも話者間でも変動し,概して音韻環境に依存するとされている。この事象を音声生成の生物学的基礎に関わる問いと位置づけ、接近音/l/に関するこれまでの調査結果に基づき、個人差を生む要因について検討を進める。 ② 調音動作の制御と声道の形態的特徴:①の検討を進めると共に、先行研究によって報告されている、様々な言語音(例えば、母音、摩擦音)に関するデータを精査し、声道の形態的特徴と調音運動の制御との関係について探究する。 研究成果の公表については、現時点において通常の形態で開催が予定されている次の国際学会に発表申請する計画である。ひとつは「第23回生成文法に関するソウル国際会議(The 23rd Seoul International Conference on Generative Grammar)」(於・Sogang University、2021年8月11日から13日)で、もうひとつは「第7回R音に関する国際会議(R-ATICS7:the 7th edition of 'r-atics)」(於・the University of Lausanne、2021年11月18日~19日)である。(なお、これらの学会がオンライン開催となることも想定していることを申し添えます。)
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Causes of Carryover |
(理由)当初の計画では、Interspeech 2020(9月14日から18日→10月25日から29日へ日程変更)等の国際学会に発表申請し、成果を公表することを予定していた。しかしながら、新型コロナウィルス感染症の発生と感染拡大による影響(研究代表者・中村のその他の業務多忙を含む)により、発表申請を見送らざるを得ない状況となった。これに加えて、収集したデータを保管するための記憶媒体の購入を控えたために、次年度使用額が生じた。 (使用計画)補助事業期間延長の承認が得られたことで、2021年度は本研究課題の最終年度となった。2021年度には、これまでの研究成果を総合的に検討し、新しい調査分析を必要に応じて実施して、研究成果の積極的な公開を考えている。現時点においては、通常の形態で開催が予定されている2つの国際学会(セクション「8. 今後の研究の推進方策」を参照ください)に発表申請する計画であり、そのための旅費と学会参加費を措置したいと考えている。なお、通常開催からオンライン開催に変更されることも念頭におき、(旅費ではなく)学会参加費としての費用が必要となることも想定している。また、本研究課題における調査分析データ(調音、音響、MRI画像・映像)について、解析を遂行しているコンピュータ以外の保管場所を確保するために、記憶媒体(大容量の外付けハードディスク)の購入のための費用を措置する考えである。
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Research Products
(2 results)