2021 Fiscal Year Annual Research Report
Research on integration of 'construal' in cognitive linguistics and 'sense' in philosophy of language
Project/Area Number |
18K00551
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
酒井 智宏 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00396839)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイロニー / ふり / 発語内効力 / 発話者 / ムーアのパラドックス / 質の格率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は言語行為に話者による自身の行為の捉え方が刻み込まれていることを示した。最終年度は特にアイロニーに焦点を当てた。アイロニーに関する「ふり」説によると、アイロニーPを発話する者は、Pを言うふりをしているにすぎず、Pは発語内効力を伴わない。「エコー」説によると、アイロニーの発話者は、ある人ないしあるタイプの人に暗黙裡に帰属された思考をエコーし、その思考に対する乖離的態度を示す。グライスは、アイロニーが質の第一格率に違反する発話であり、Pを言ったかのように見せかけていると述べるが、これを「発話者はPを言っていない」と解釈するのは誤りである。「Pである。しかし私はPだとは思わない」という発話が矛盾を含まないにもかかわらず奇異に響く現象は「ムーアのパラドックス」と呼ばれる。このパラドックスはたとえPがアイロニーとして発話された場合でも同じように生じる。このことから、アイロニーの発話者がPを真なるものとして提示していること、すなわち自らを、Pを主張する発語内行為を遂行する者として提示していることがわかる。デュクロの用語では、アイロニーの発話者は、発語行為の遂行者である「話し手(speaker)」が、発語内行為の遂行者である「発話者(enunciator)」と同一人物であるという体で発話を行っており、この点でアイロニーとそれ以外に違いはない。アイロニーの特徴は、状況からしてSがPだと思っていないことが明白であり、かつその事実が認識されることを発話者が期待している点にある。アイロニーの発話者は、Pを主張する行為を遂行している体裁をとりつつ、同時に自らがPの発話者でないことが明白であるようにふるまう。Pを主張する発語内行為を遂行するふりをしつつ、Pを発する発語行為を遂行するふりはしないということは可能であり、このことが「ふり」説を「エコー」説と実質的に等価なものにする。
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Research Products
(3 results)