2019 Fiscal Year Research-status Report
広東語の文末助詞のイントネーションと意味――日本語との共通性を求めて
Project/Area Number |
18K00561
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
飯田 真紀 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (50401427)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 広東語 / 日本語 / 音調 / イントネーション / 疑問 / 伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、広東語の文末助詞が持つ声調が、日本語の文末助詞にかぶさるイントネーション(音調)と同じ性質のものであるとの発想を出発点とし、文末助詞にかぶさる音調の違いがどのような意味の違いをもたらすかという言語横断的課題を究明するため、まずは広東語において文末助詞の音調の役割を考察する目的を持つ。ただし、同じ音調でも個々の文末助詞ごとに果たす役割が異なると見られるため、特定の音調が持つ意味を無理に一般化することはせず、個別の文末助詞ごとに音調と意味の関係を綿密に考察し、その結果を積み上げて一般化を行う方法をとる。 広東語では、特に高平ら調[55](最も高い音を5とし、最も低い音を1とする)の文末助詞に変異形として高下り調[53]を持つものが多い。そこで、本年度はその中でも特にme55と高下り変異形のme53との違いに着目した。me55の本来の意味は、それが付く命題の成立が疑わしいという話し手の対命題的態度を表しつつ聞き手に成立可否の判定要求をするという伝達態度を持つと記述できる。一方、高下り変異形のme53は、聞き手に尋ねるまでもなく命題の成立可能性は明らかにないと最初から決め込む反語的なニュアンスを持つと見られる。このようなことから、高下り調は、me55の持つ何らかの意味的要素を抑制するように働いているのではないかと考えられるが、それが驚きや不可思議さの表明という対命題的な意味要素を抑制しているのか、聞き手に成立可否の判定を仰ぐという対人的な意味要素を抑制しているのかまでは検討できなかった。今後、me53の共起成分や構文的特徴、並びに語用論的特徴を精査し、さらに考察を進める必要がある。 そのほか、正反疑問文の末尾に現れるne55とその高下り調の変異形ne53についても、ミニマルペアを作成するなどして、意味の違いに関する初歩的な調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は様々な想定外事態により計画が思うようには実行できなかった。まず1つは香港において逃亡犯条例改正反対をきっかけに始まった大規模デモの発生と継続があった。本研究は広東語を研究対象にしているため、香港には文献調査、言語データ調査及び成果報告・学術討議のために数回、渡航することを計画していた。しかし、現地の情勢にかんがみて、香港で開催される国際学会への参加を見合わせ、調査を延期した。それを受けて、国内で香港広東語の母語話者を探し言語データ収集を行う予定に切り替えたが、今度は新型コロナウイルスの感染拡大で、年度末に予定していた国内での聞き取り調査及び成果報告が実施できなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は全世界的に新型コロナウイルスの蔓延とその余波がしばらく続き、外出や移動に制限がかかることが予測されるため、主にビデオ通話を通じて広東語母語話者に言語データ収集への協力をお願いする予定である。ただし、音調のような微細な音声的違いを考察対象にしているため、双方の通信環境を整える必要がある。また、文献資料や映像資料はできる限り、電子媒体のものを利用するように切り替える。最終年度は国際学会や国内学会にて本研究課題の成果発表を予定していたが、恐らく移動が難しい情勢であるためオンライン参加も検討する。そのほか、これまでに明らかになった成果を論文にまとめ、学術誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
国内での新型コロナウイルス感染拡大により、年度末に予定していた成果報告・学術討議のための出張と母語話者調査ができなくなった。 今年度は感染収束が見込めるまでは文献調査や言語データ調査、成果発表など研究課題遂行のあらゆる部分を遠隔で行うようになるべく努める。そのためには電子書籍・電子映像資料の入手、ビデオ通話環境の整備にかかる支払い、及び母語話者への調査協力謝礼や論文校閲への支払いが当初計画よりも多く予定される。
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Research Products
(4 results)