2018 Fiscal Year Research-status Report
統語論と談話・情報構造とのインターフェイス:問いとその答えの表現形式を巡って
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18K00570
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石原 由貴 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 教授 (40242078)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 疑問文とその答 / 断片的な答 / 指定擬似分裂文 |
Outline of Annual Research Achievements |
Yes/No疑問文とその答を生成文法の枠組みで扱ったHolmberg (2016)を詳細に検討した。HolmbergはYesやNoといった応答詞だけの答も、Yes/No疑問文の一部のコピーを含んだ文の構造を持っており、それが音声としては削除されて発音されるので、意味解釈としては文として解釈されるという分析を提案し、また、Yes/No疑問文の答えとして、日本語のように「はい、行きました」と動詞を繰り返す言語と、英語のように’Yes, he did.’と動詞を繰り返さない言語があることを、広範囲にわたる調査で示しているが、今後さらに動詞の屈折や節の構造についての研究を各言語で進める必要があると思われる。また、否定疑問文に対する答がどのように解釈されるのか、という点について、日本語を含むいくつかの言語のデータが調査されているが、特に日本語に関しては句構造の詳細が触れられておらず、さらに検討の余地があると思われる。この本の書評を書いたものがEnglish Linguisticsに掲載された。 また、指定擬似分裂文が疑問文とその答から成っているというRoss(1972)やDen Dikken et al. (2000)の分析を日本語でも支持したIshihara (2017)を再検討した。具体的には、指定擬似分裂文の前提節と焦点句における態のマッチング効果についての統語的な説明に一部問題があることを認識したため、統語的な制約ではなく意味上の制約として、Jackendoff (1990)のアクション階層を用いた主語の意味役割に関する条件を指定擬似分裂文の前提節と焦点句に課す方がより妥当ではないかという結論の至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
家庭の事情により、当初の計画どおりに研究時間を確保することが難しかった。しかし、Holmberg (2016)の検討や、昨年度まで行ってきた指定擬似分裂文の疑問応答分析に関する自らの研究を見直し、その問題点を改善し、よりよい分析案を検討することはできたので、翌年度につなげていきたいと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
1つの文の中に疑問文とその答が含まれているという指定擬似分裂文の分析を出発点とし、他にも同じような例がないかを検討したいと考えている。たとえば、「大きいの何のって」という表現には、「て」という補文標識のような要素や「何」という疑問詞のような要素が含まれているが、どのようにして「非常に大きい」という意味を含意するような解釈が可能になっているのだろうか。また「何てったってアイドル」というような定型化された表現についても、その成り立ちや解釈の可能性の広がりを調べ、それにかかる条件を明らかにしていきたいと考えている。 また断片的な答の解釈がどのように得られるのか、についても、意味や談話情報構造の観点のみならず統語的な観点からもさまざまな提案がされているので、先行研究を批判的に検討し、さらなる検討を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成30年度の学会への参加を取りやめたため、次年度使用額が生じた。 今年度、学会に参加するための旅費や書籍の購入費に充てたい。
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