2019 Fiscal Year Research-status Report
A constructional approach to adverbial modification of adjectives in Japanese: the productive network model with creative instances.
Project/Area Number |
18K00604
|
Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
井本 亮 福島大学, 経済経営学類, 教授 (20361280)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 連用修飾 / 副詞的修飾 / 形容詞 / 感情形容詞 / 語彙語用論 / 構文ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は〈形容詞連用形+動詞句〉の組み合わせで多様な関係を構成する形容詞連用修飾関係を研究対象とし、その構文的特性を予測可能なかたちの構文ネットワークモデルとして記述することを目的とする。 2019年度は本研究課題の計画にもとづき、以下の研究成果を発表した:[著書]井本亮(2020)「形容詞連用修飾の未確定性をどう捉えるか―文の成分の語用論」『日本語語用論フォーラム3』(加藤重広・滝浦真人編, ひつじ書房)[口頭発表]井本亮(2019)「感情感覚形容詞の構文間ネットワーク:話者認識タイプを中心に」(日本言語学会第158回ワークショップ)、「程度修飾と情態修飾の接点について:ヨウニ節を手がかりに」(現代日本語文法研究会大16回大会) この研究成果によって、本研究課題の当初の計画だった次元量形容詞の形容詞連用修飾において、なぜあのような多種多様な読みが生じうるかという根源的問題に対して、文の成分の意味解釈のメカニズムに語彙意味論・構文文法論・語彙語用論という多面的かつ重層的なプロセスが関わっていること、これらの解釈プロセスがオンラインでの意味構築プロセスであることを見出し、さらには多様性の源泉はあくまでも文の成分の構文機能に求められることなどを論じた。さらに、昨年度より着想を得ていた感情感覚形容詞の形容詞連用修飾の事例については、同じく構文文法における構文ネットワークモデルを明確に導入し、その意義を実証した。さらに、言語学の主要概念である「主観性」をキー概念として導入することで、その特殊性と他の事例にも共通する一般性を明らかにし、本研究課題の理論的基盤の有効性とさらなる展開可能性を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度における本研究課題は概ね順調に進展していると言える。本研究の目的は産出された修飾関係の解釈のタイプ(読み)を広く観察・分析する手法によって、形容詞連用修飾を予測可能な形の構文ネットワークモデルとして記述することである。 2019年度の研究では大きく2つの研究課題が展開され、それぞれ有望な形で研究成果にまとめられた。ひとつは①形容詞連用修飾の語彙語用論的分析であり、もうひとつは②感情感覚形容詞の形容詞連用修飾に見られる創発性である。 ①「大きく」のような形容詞連用形が文という環境(=文文脈)のなかで文の成分としての役割を果たすとき、どのような過程でその意味的未確定性を解消させるか)という観点から分析を行った。その結果、連用形形容詞の意味の確定には語彙意味論(形容詞)・日本語構文論(連用修飾)・そして語用論(語彙のオンライン的解釈プロセス)の3種のレベルが相互に相補的に関わっていることが明らかになった。これは文法論・語用論のどちらの先行研究からも等閑視されてきたことであるが、形容詞連用修飾の多種多様で柔軟な解釈確定プロセスを捉えるには3種の重層的な解釈レベルを弾力的に勘案していく必要があることを明確に示すことができた。 ②「風が心地よく吹く」のような話者の感情感覚を表す形容詞が情態修飾成分として働く事例は日本語では珍しくないが、これが既存の情態的修飾限定の考え方だけでは説明が付かない事例であることが見出され、その成り立ちの解明には構文ネットワークモデルによる分析が有効であることが示された。さらに、この現象の成立には感情感覚形容詞が持つ主観性が重要な役割を担っており、これまでの形容詞研究や情態修飾研究とは別の構文機能論的分析が必要であることを指摘することができた。 このように、本研究課題はさらなる展開の可能性を示しながら、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
形容詞連用修飾関係を抽象的なスキーマ(構文的ひな形)とその具現化の様相として多種多様な修飾関係を捉えるのが本研究の理論的枠組みである。この構文ネットワークモデルに大規模コーパスデータの探索型調査で抽出された〈形容詞連用形+動詞句〉の用例群をデータとして、修飾関係のタイプと解釈プロセスを分析していくのが本研究の基本的な研究手法であり、これは次年度以降も継続していく。 今後の研究の推進方策としては、この研究手法により具体的な二つの論点を合わせて詳細な分析に取り組む:第一に、感情感覚形容詞が事柄の情態修飾関係として働く事例について、用例の成立要件を「主観性」をキー概念として明らかにするとともに、隣接する他の構文との相互関係を構文ネットワークモデル上に位置づけることである。これは前年度からの研究課題の決着となる。 第二に、「大きく、深く」などの次元量形容詞には程度副詞相当のような読みを持つ事例がある(「大きく影響する、深く関わる」など)。これについて、情態修飾と程度修飾が先行研究の定説以上に密接な往還があることを指摘するとともに、形式副詞ホド節や副詞節を作るヨウニ節の用法と合わせて連用修飾成分(節)の機能論的観点から分析を行っていく。 第三に、次元量形容詞群・感情感覚形容詞群の2大グループがネットワーク状に展開する修飾関係の多様性についてコーパスデータを元にした記述を総括し、具体的な構文ネットワークとして一覧できる研究成果公開に向けて検討を進めていく。
|
Causes of Carryover |
2019年度の研究進捗の中で、研究成果公開が2020年度に持ち越されることが判明した。したがって、それに関わる研究旅費、英文校正費、研究成果公開のためのウェブサイト開設費用、研究発表に必要な機器の購入について年度を超える必要が生じたため、次年度に使用する助成金が発生した。次年度2020年度はまず上記の研究計画について使用し、継続して研究を遂行し、最終的な研究成果公開を行う。
|
Research Products
(4 results)