2019 Fiscal Year Research-status Report
現代日本語の文法体系における格体制の交替現象の位置づけ:関連諸現象との比較から
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18K00605
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
川野 靖子 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (00364159)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 格体制の交替現象 / 壁塗り代換 / 多義 / メトニミー / メタファー / locative alternation |
Outline of Annual Research Achievements |
現代日本語には、「壁にペンキを塗る」「壁をペンキで塗る」のような、格体制の交替現象がある。筆者は過去の科学研究費による研究で、この現象の成立原理を明らかにしてきた。次のステップとして、本研究では、現代日本語の文法体系における、当該現象の位置づけを明らかにする。本年度の研究実績は下記のようにまとめられる。
(1)前年度着手した、交替動詞と多義語の違いに関する研究を進めた。メトニミー的多義(e.g., 「(風が)吹く」と「(汗が)吹く」)だけでなく、メタファーにより成立する多義((e.g., 「(この味噌は)甘い」と「(彼は娘に)甘い」)も比較対象に加えて、交替動詞との違いを分析した。結論として、「壁にペンキを塗る」と「壁をペンキで塗る」の意味の違いが意味類型の違いであるのに対し、多義語における意味間の違いは、現実世界の指示対象の違いにある、という見解を提示した。また、この見解を踏まえることで、交替動詞の語義の記述が適切に行えるようになることを示した。
(2)上記(1)の研究を進める過程で、交替動詞と類義語の違いについても検討し、交替動詞を同形の類義語とみることはできないということを指摘した。また、同じ出来事を別の動詞で描写できるという事例(たとえば、同じ出来事を見て「ペンキを塗っている」とも「ペンキを付けている」とも言える、といった事例)と壁塗り代換との違いについても考察し、前者の事例は異なる集合間の部分的な重なりによって生じる事例であるのに対し、壁塗り代換は、同じ事態の集合が2通りの解釈を持つことで生じる現象であるという結論を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
格体制の交替現象との関連が指摘されている諸現象との比較を進め、研究成果を論文として発表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
格体制の交替現象との関連が指摘されている他の文法現象についても比較を行い、原理的なレベルで現象間の異同を明らかにする。その後、前年度までの研究成果と統合し、日本語の文法体系における、格体制の交替現象の位置づけを明らかにする。
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Research Products
(1 results)