2020 Fiscal Year Research-status Report
漢字文化圏における近代二字漢語動詞と形容動詞の発達と交流に関する総合的研究
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18K00629
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
沈 国威 関西大学, 外国語学部, 教授 (50258125)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 二字漢語 / 近代語 / 漢字形容動詞 / 漢字サ変動詞語幹 / 日中語彙交流 / 言文一致 / 科学叙述 / 叙述語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度コロナ禍の厳しい状況下で、著書1点、編書1点、論文4篇、投稿中の論文2篇を完成し、学会発表・基調講演等13回を行った。公開データベース「東アジア近代新語訳語研究プラットフォーム」の構築も順調に進んでいる。概ね研究計画に基づき、具体的に下記の内容で研究を進めた。(1)近代漢字語の二字化における要因に関する分析;(2)中国語に与えた日本語の影響の解明;(3)日中同形語6300語に対し、語源、英華字書類、中国語近代コーパス、日本語近代コーパスでの調査を実施した上、特にサ変動詞語幹2400余語;漢語形容動詞600について詳細な語誌記述を行った。(4)2019年10月20日、「東アジア近代新語訳語研究プラットフォーム」が構築完了し、仮運用を始めた。本プラットフォームには、日中韓近代新語訳語が7720語収録されている。それぞれの語について、語形、訳出原語、品詞、語源タイプ、出自、中国語の出典、日本語の出典、語誌などについて記述している。今年度は、特に二字サ変動詞語幹の発達・普及と明治20年代以降の言文一致に関連づけて考察した。 上記の研究成果を踏まえ、『新語往還――中日語言交渉史』(全693頁)という専門書を社会科学文献出版社より出版した。この著書では、日本語と中国語の近代語彙体系の再構築について、新語創出、言語接触、語彙交流、語源考証と4部を立て、論述した。特に新しい概念は、二字漢語で表現する;既存の概念を表す一字語や在来語は、同義の二字漢語(群)を獲得するという現象に注目し、日中両語彙体系の近代的再構築を分析した。二字漢語という点に関連づけられた両言語は、19世紀中葉まで中国語が日本語に、20世紀に入ってから、日本語が中国語に強い影響を与えたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍によって外出が減り、語源調査、論文執筆の時間が増えた。リストアップした二字語について、形容動詞、サ変動詞語幹を中心に『辞源』『漢和大辞典』『日本国語大辞典』等で調査し、個々の語が訳語として成立していく過程を英華辞書類、英和辞書類で調べた。また、使用頻度の変化を中国語歴史コーパス(『申報』『大公報』)と日本語歴史コーパス(国立国語研究所による「中納言」)によって基本調査を行い、数値化をしているところである。2019年までの作業は、学術用語、つまり科学技術関連のタームが中心であったが、2020年は、叙述語、つまり動詞、形容詞が中心であった。また考察の視野を明治期の漢字語基本語彙化に広げた。つまり、同義、類義の一群の語が1語のみ基本語として、定着し、その他の語は、表現の深さを司る候補語となる近代語彙体系の形成における顕著な現象である。私の研究は、この現象に対しても解釈性を与え得るものである。漢籍語が19世紀末20世紀初頭、その使用頻度増減の変化を中国語歴史コーパスと日本語歴史コーパスによって、捉えようとするのが、本研究のオリジナリティーである。
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Strategy for Future Research Activity |
日中同形二字語6300語、及びサ変動詞語幹、漢語形容動詞等に関する語源調査を踏まえ、次のように研究成果を整理し、報告していく予定である。「東アジア近代新語訳語研究プラットフォーム」について、引き続き、中国語の出典、日本語の出典、語誌等の情報を補完し、正式運用を始める。 語源調査によって、漢籍語か否かを分類し、語源記述を完成する。非漢籍語の一覧表を完成し、A類、つまり日本借形語として、精査し確定する。この部分は、今後の日本語借用語研究において基本となる研究データとなる。 漢籍語について、詳細に吟味し、B類、つまり近代日本で意味の変化を蒙った語について、その意味の変遷を記述する。意味変化のないものに対し、使用頻度がないかと中国語・日本語コーパスの調査結果に照合し、C類、つまり日本語の刺激によって活性化された語と中国語独自の継承語とわけ、それぞれ記述する。 以上の作業により、中国語に与えた日本語の影響のみならず、中国語の近代語彙体系形成の過程も明らかになるだろう。 また、日本語の近代は、明治中期の文語文から口語文への移行から始まったと言っても過言ではない。この「言文一致」という名の言語事象は、語彙的基盤によって支えられている。言文一致と二字漢語の関連性についても考察を進める予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による国際会議、出張等の支障で実行できなかった。
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Research Products
(13 results)