2022 Fiscal Year Research-status Report
日本語教育における災害時情報リテラシーの教育法の開発
Project/Area Number |
18K00730
|
Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
本田 明子 立命館アジア太平洋大学, 言語教育センター, 教授 (80331130)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 情報リテラシー / 災害時 / やさしい日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本で生活する日本語非母語話者を対象とした災害時情報リテラシーの指導方法の開発を目的としている。この研究では、情報リテラシーを「情報を正しく読み解き、正しく発信すること」と考えており、「災害時情報リテラシー」を以下のように定義している。 災害時情報リテラシーとは、地震などの自然災害に見舞われた非日常的な文脈のなかで、①その状況において機能しているあらゆる情報源を利用して情報を入手し、②その情報の信頼性を確認し取捨選択したうえで、その情報にもとづいて必要な行動をとり、③さらにその情報を必要とする人に向けて発信し、共有することのできる能力をいう。 これまでの研究では、情報リテラシー教育には、単に言語能力やICTリテラシーだけではなく、対象とする言語との心理的な距離や異なる社会文化の状況を理解する能力が必要であることや、「やさしい日本語」の有効性や限界などがわかってきた。また、災害時の特殊な用語などの理解の問題のほかに、避難を指示している文脈と、避難を勧める文脈の違いなど、状況に合わせて「文脈を読みとる」ことにも難しさがあることなどがわかった。 また、当初は情報の取得の方法が情報リテラシーの中心になると考えていたが、手に入れた情報の信頼性を検証することのほうがむずかしいこともわかってきた。そして、コロナ禍により、オンライン化が一挙に進んだことによって、研究として新たな課題も生じた。情報源と信頼性には密接な関係があるが、オンライン化が進み、「人」と直接接することが少なくなると、情報源の確かさをどのように確認するかが新たな課題となった。このようにオンライン化に対応した情報リテラシー教育のあり方を開発することが2022年度の大きな課題であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、コロナ禍の影響を受けて期間延長をしており、2022年度中に成果をまとめる予定であった。しかし、コロナ禍の影響でオンライン化が一挙に進んだことによって、研究に関して新たな課題が生じた。これまでの研究から、災害時情報リテラシーにおいては、情報を得ることよりもその信頼性の検証のほうがむずかしく、また重要なのではないかという仮説を得ており、情報源が信頼性に大きく影響することから、情報源の信頼性を評価する能力を災害時情報リテラシーに含める必要があると考えている。ところが2020年以降、コロナ禍によってオンライン化が進み、「人」と直接接することが少なくなったことにより、情報源の確かさをどのように確認するかが新たな課題となった。そして、2022年度、コロナ化が収束しつつある状況の中で、情報の伝達における「人」とオンラインの役割がどのように変容するかを見極めるためには、もう少し観察を続ける必要があり、追加の調査を実施する予定であったが、2022年度にはまだコロナの影響も残っていたため、思うような調査を進めることができなかった。 さらに、情報の取得の段階では「やさしい日本語」が有効かという視点からのデータの収集も実施した。現在は、収集したデータの分析を進めている。「やさしい日本語」はある程度の情報伝達には役立つものの、情報の発信者と受信者の前提とする情報量の違いにより、伝えたいことが伝わらない場合があることがわかってきた。このような状況を解消するためにはCEFR補遺版で強調されているmediation(仲介)の能力が有効なのではないかと考えている。 このように、災害時情報リテラシーについて、情報源の信頼性の評価や、仲介といった新たな視点を得られたことは、2022年度の成果といえる。一方で、新たな視点が加わったことにより、新たな調査も必要となり、研究の成果のまとめには至らなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、1年間の再延長が認められたが、今年度を最後として最終的な成果をまとめるために追加の調査と災害時情報リテラシーの構築につながる教育法案の試行と検証を計画している。この課題については、コロナ禍の影響で取り組む期間が長くなったこともあり、当初の計画にはなかった新たな視点がみつかった。そのため、研究の範囲が広がり、まとめ方がむずかしくなった部分もあるが、2023年度は、情報の仲介(mediation)のための「やさしい日本語」を利用した災害時の情報伝達に焦点を当てて、追加の調査を予定している。そのうえで、情報の発信元の信頼性をどのように確認するのか、批判的談話分析の手法や、批判的読解力の育成といったアプローチを取り入れた教育法を試行してその成果をまとめる予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、参加予定だった学会がオンラインによる実施となったことと、オンライン化が進んだため、現地に行かなくても調査ができるようになったため、出張旅費の支出がなくなり、次年度使用額が生じた。 2023年度は、状況が落ち着き、学会等も対面で開催されるようになり、他の研究者からの情報収集や意見交換のため、学会参加の旅費とするほか、成果発表のための費用として使用する予定である。
|