2019 Fiscal Year Research-status Report
Analyzing intervention effects in Japanese EFL learners' acquisition of raising and relative clause constructions: An interface approach
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18K00834
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
吉村 紀子 静岡県立大学, その他部局等, 客員教授 (90129891)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤森 敦之 静岡県立大学, その他部局等, 准教授 (80626565)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 介在効果 / A-移動 / 局所性 / 経験者句 / 主語繰り上げ構文 / 受動態 / 目的語関係節 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、まず、主語繰り上げ構文における経験者句の介在効果(例えば、John seems to Mary to be happyにおけるto Maryの影響)について代名詞gender構文(Mary appeared to her brother to work hard on his assigment)及び再帰代名詞構文(Tome seems to Linda to have lost confidence in himself)を調査した。低~中習熟度レベル(TOEIC L&R 450~600)の学習者にはgenderや再帰代名詞の束縛制約は理解の手助けとして機能しなかった(平均正答率50%~55%)。 続いて、欧米での最新研究に沿って、受動態(Mary was hit by John)や目的語関係節(the book that John read)における経験者句(by John, John)の介在効果について調査し、日本人英語学習者はby-句による影響を受けない一方、目的語関係節では、他言語の英語学習者ほど影響は大ではないが、ある程度の影響が生じることが明らかになった。特に、低~中級レベルでは読解より聴解においてその介在効果は顕著であった。 加えて、ECM受動態(The doctor is believed by John to have worn a white shirt.)について経験者句(by John)の介在効果について調査した。実験では、低~中級レベルの大学生は平均55%の理解度で、Johnを不定詞の主語とする誤答が多く見られた。 このように、日本語に英語のようなA-移動がないため「局所性」及び「母語干渉」による介在効果は深刻で、習得に時間を要することが再確認された。関係節の聴解では統語構造より表層上の直線語順に依存して文処理することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
主語繰り上げ構文の理解を妨げる経験者句の介在効果について、当初の計画では予定になかった2つの実験-(i)代名詞のgender区別を利用し、不定詞節の目的語にhis,her, theirを挿入した調査 (ii)日本語の「自分」が英語のhimself等と異なり長距離束縛も許容する点に着目して、不定詞節の目的語にhimself, herself, themselvesを挿入した調査-を行なうことができた。これらの実験結果は2つの国際学会(GASLA15 ネバダ大学リノ校 3月・GALA 14 ミラノ大学 9月)で発表し、その内容に加筆したものが論文として掲載される予定である。 同様に、当初の計画になかった調査-具体的には不定詞の主語が受動態の主語に繰り上げられた構文・ECM (Exceptional Case Marking)受動態について、ここに生じるA-移動について日本人英語学習者が理解できるかどうか、またその理解に経験者のby-句が介在効果を与えるかどうかについて-を実施した。分析では、日本人英語学習者は単なる受動態については、by-句の有無に関わらず、ほぼ完全な理解を示したのに対して、ECM受動態では受動態の主語を不定詞の主語として理解できないことが明らかになった。ECM受動態が日本語に存在しない点を考えれば、母語干渉が第二言語習得において大きな障壁であることが再認識されたわけである。 さらに、関係節における介在効果の調査が読解のみならず聴解において実施できた。特に、この調査では、約100人の大学生が3枚の絵を見ながら英語母語話者による目的語関係節の録音文を聞いて適切な絵を選択したが、平均正答率は極めて低かった。つまり、調査の副産物として、日本人英語学習者が全般的にリスニング力が極めて低いことを示した。これは日本の英語教育の改善への重要な示唆点である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年の研究は次の3項目に焦点を置いて実施して行きたい。第一に、主語繰り上げ文に関する調査の総括として、経験者句にto me, to us, to youを用いた場合に学習者はどのような理解を示すかを調査する。つまり、視点を主観的にした構文においても同様な介在効果が生じるかどうかが焦点である。このテーマに関する調査が先行研究においてほぼ皆無であることを考えれば、発話の視点と統語上の「局所性」の係りについて興味深い観察が期待される。 第二に、一般的に英語学習者にとって習得がむずかしいと言われている非対格受動態について、日本人英語学習者が直面する問題点をA-移動と介在効果の観点から調査する。この課題について先行研究の多くは項構造の観点から考察してきたが、納得できる説明は未だ提示されていない。非対格受動態が動詞の目的語が統語上主語の位置に移動したA-移動によって生成されると考えて習得データを見た場合、何が見えてくるのか。この結果は非対格動詞の学習指導に有益な方向性を提示するのではないだろうか。 第三に、関係節の調査に主語関係節を加えて、目的語関係節と比較して介在効果を再分析し、続いて、これまでの理解度検証を参照しつつ産出調査を開始する。オンライン授業を主体とする現在の状況を鑑みれば、口頭での産出調査は工夫が必要であるため、書き英語による産出調査から取り組みたいと考えている。
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