2018 Fiscal Year Research-status Report
近現代国家における先住民の包摂とその影響―北米(米加)ボーダーランズの事例から
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18K00915
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Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
岩崎 佳孝 甲南女子大学, 文学部, 准教授 (90340835)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 先住民 / ボーダーランズ / アメリカ合衆国 / カナダ / 国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、19世紀後半の合衆国の国内先住民包摂のための施策、特に「保留地」政策に馴染まず抵抗し、ボーダーランズ的生の維持のため合衆国内を移動/漂流し、その結果カナダに「亡命」することになった先住民集団ハンクパパ・ラコタ(Hunkpapa Lakota)の事例を中心に研究し、学術論文としては岩崎佳孝「「「内」と「外」の先住民―19世紀後半アメリカ合衆国インディアン政策と先住民集団のカナダ亡命まで」」甲南女子大学『甲南女子大学研究紀要I』第55号(2019年3月19日)にまとめ、学術研究報告としては岩崎佳孝「「偉大なる父」と「祖母の大地」―19世紀後半北米先住民集団の合衆国からカナダへの亡命の意味」第86回西洋史読書会大会(京都大学、2018年11月3日) を行った。 またその一方、20世紀初頭の合衆国ノース・ダコタ州「タートル・マウンテン・チピワ(Turtle Mountain Chippewa)保留地」創設の際、国内先住民ではないとして同保留地から放逐された「リトル・シェル・バンド(Little Shell Band)」についても詳細な研究を開始し、本年度9月に福岡大学で開催される日本アメリカ学会シンポジウムで研究報告を行い、また学術論文としてもまとめるべく、これまで研究を進めてきた。 以上の二課題はいずれも、合衆国およびカナダにおいて国内「先住民」と認められなかった集団の視角から、国家統合上前提された「先住民」がいかなるもので、同集団がどのような点で合衆国に認められず存在を否定されたのかを検証する試みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、現代のアメリカ合衆国とカナダの先住民集団(部族)が抱える重大な諸問題の多くが、18世紀末から20世紀初頭の両国家への統合過程で先住民社会の実態が大きく変容したことによってもたらされた点につき歴史学的に検証することを目的とする。とくに米加国境を跨ぐ領域(ボーダーランズ)を生活圏とする先住民集団がいかに両国家「内」先住民として包摂、あるいは放逐され、その結果実態の変容や、外部世界からの実存の否定・非可視化を強いられるに至ったのかという点について議論することを目的とする。 昨年度は以上の目的に沿って、年度当初に以下の計画に沿って研究を開始した。19世紀末~20世紀初頭の合衆国ノース・ダコタ州「タートル・マウンテン・チピワ保留地」創設の検討を行うことを企図した。とくに先住民タートル・マウンテン・チピワ社会を構成する二集団①「純血者」②「混血者」メイティの内、②のみ合衆国に先住民と認められた事例から、合衆国の統治上あるべき「先住民」の想定が先住民社会を分断し、それに応じた一部成員による「先住民集団」創出が行われたことを明らかにし、上記で国内先住民ではないとして保留地から放逐された①の「リトル・シェル・バンド」について検討することである。ここでは上記事例に対置する、先住民と認められなかった同集団の視角から、国家統合上前提された「先住民」がいかなるもので、同集団がどのような点で合衆国に認められず存在を否定されたのかを精査しようとしたのである。 今年度は「研究実績の概要」に挙げたように、上記目的のうち先ずは①についての研究を進めつつ、これに加えて当初は別年度実施の研究を予定していた、国家包摂に馴染まずボーダーランズを移動する「亡命」先住民集団の研究も行った。 以上の理由により、区分を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で述べた①についての研究を継続し、今年度9月の日本アメリカ学会シンポジアムにおける研究報告としてまとめる予定である。 また同様に国家包摂に馴染まずボーダーランズを移動する「亡命」先住民集団の研究についても、昨年度は合衆国からの「亡命」過程までの研究を進めたことから、今年度以降は同先住民がその後カナダ国内でどのように扱われたかという問題を取り上げ、合衆国、カナダ両国の先住民包摂の在り様とボーダーランズ先住民のこれに対する反応という、より比較的かつ資格を広げた研究にまで進展させていく所存である。 また、当該研究の受給期間中研究の端緒につくことを構想している、北欧ボーダーランズ、特に現在ノルウェー国内に居住する先住民サーミおよび、東南アジアのボーダーランズ、とりわけベトナム国内に住む先住民と、カナダおよび合衆国ボーダーランズの先住民の経験との比較を行うべく、ノルウェー、ベトナム両地域の先住民についての基礎的な研究と現地におけるリサーチ、資料収集も開始したいと考えている。
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