2018 Fiscal Year Research-status Report
Project to investigate academic researches and human exchange during the Sino-Japanese War: based on the records of Koa overseas student, Kanichi Ogawa
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18K00917
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Research Institution | Doho University |
Principal Investigator |
藤井 由紀子 同朋大学, 仏教文化研究所, 所員 (40746806)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日中交渉史 / 近代仏教史 / 日中戦争 / 学術調査 / 中国開教 / 学史研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる2018年度の研究成果は以下の2点に集約できる。 1点目は、「小川貫弌資料」の基礎調査を行い、データベースを作成したことである。「小川貫弌資料」については、日中戦争下の学術調査の実情を具体的に解明しうる資料として科研採択前から数点を抽出して考察を進めてきたが、今年度は資料全体(約1200点)を分析対象とし、形状や内容等のデータをとり、それらを整理して簡易データベースを作成するとともに、一部資料のテスト撮影を行い、今後の資料の撮影計画を練った。本研究課題の目的は、日中戦争下で中国調査に携わった研究者の遺稿類を近代戦争という政治的文脈のなかで捉え直すことで、これらに史料的価値を見出そうとする点にあり、「小川貫弌資料」を歴史史料として公開するための重要なツールとして資料画像を加えた公開用データベースの構築を目指しているが、この簡易データベースはその土台となる。 2点目は、調査研究の経過報告(調査概要・論文・資料リスト)の執筆と展覧会の実施である。基礎調査に基づいて「小川貫弌資料」を年代順に整理した上で、今年度は小川の中国滞在の前半期にあたる南京逗留時代の資料に着目し、先行研究や関連資料等の文献調査を行って当該資料の史料性について論じたものを、調査報告として『同朋大学仏教文化研究所紀要』第38号(2019年3月発行)に掲載した。また、本研究課題では「小川貫弌資料」を補完する同種資料の発掘も視野に入れており、今年度は関係者の協力のもと、中国仏教史学者の小笠原宣秀、本願寺派開教使の亀谷法城が残した資料の比較研究にも着手し、前者については同朋大学のギャラリーで「小川貫弌資料」と併せて紹介する展覧会を開催し、図録を作成して、資料の歴史的重要性を広く一般に発信したほか、後者についても上記紀要の調査報告にその概要を掲載し、これら資料群の歴史的意義について問題提起を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況を非常に良好だと考える、その理由は以下の3点に基づく。 1点目は、研究課題のベースとなる「小川貫弌資料」の所蔵者(西厳寺/小川貫弌遺族)が、資料の全面的公開を含めて、一連の調査研究に対して非常に深い理解を示している点である。特に、資料をWeb上で広く公開していくことについては所蔵者が公開を躊躇するケースも多いが、本研究課題ではその懸念がなく、自由な資料調査が可能となり、それが迅速なデータベース構築作業に結びついているだけでなく、基礎調査のサポートなど、所蔵者が研究協力者として積極的に関わっていることが、よりスムーズな調査環境の実現を可能にしている。 2点目は、先行研究の充実が挙げられる。本研究課題では、小川貫弌という中国仏教史学者が日中戦争時に作成した資料を、(1)外交戦略の道具、(2)政治的思惑を超えた人的交流の場という2つの側面から分析し、戦争下の学術調査の歴史的意義を探ることを研究目的の一つに掲げているが、調査に着手してみると、小川は学者であると同時に、本願寺派所属の僧侶でもあり、本山である西本願寺の意向をうけて、日中戦争時の宣撫工作の一環として日本の仏教各派が力を入れた中国開教事業に関わっていたこともわかってきた。近代の海外開教事業については、浄土真宗(西本願寺・東本願寺)関係の先行研究が特に進んでおり、当該方面を専門とする研究者の諸教示により、関連資料・比較資料の蒐集が効率的に行えることとなった。 3点目は、研究協力者として人材を確保できたことが挙げられる。具体的には、同朋大学仏教文化研究所の若手研究員(中川剛・日比野洋文)が研究協力者として積極的に基礎調査に参加し、資料概要の執筆やテスト撮影などに携わり、調査現場をスキルアップの場と捉えて独自に工夫を重ねる姿勢を見せていることが、本研究課題の大きな推進力につながっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題においては、次年度以降も大きな計画変更はない。ひきつづき「小川貫弌資料」の基礎調査を行い、資料内容の分析を進めていくほか、それらを用いて公開用データベースを構築する作業にも着手していく。その一方で、国内外での文献調査と実地調査を進めて、資料情報を補足・充実させつつ、本研究課題の最終目的である「小川貫弌資料」の史料的価値の考究に向けて考察材料を蓄積する予定である。 2019年度の基礎調査は、資料撮影をメインとし、撮影と画像データベース構築の両作業を通して資料を再観察し、調査データをブラッシュアップしていくことを心がけるが、資料点数が多いため、場合によっては全資料の撮影は断念し、公開用データベースにもテキストのみの掲載資料が混在するケースを想定しておく必要があるかもしれない。また、資料内容に基づいて、中国での実地調査を数回行い(山西省・河南省、南京・北京・上海)、記録が作成された当時の環境を確認する。ただし、中国の場合、文化大革命時に仏教弾圧が行われており、小川が調査した頃とは大きく様変わりしていることが予想される。この点に関しては、中国社会科学院の研究者の協力を仰ぐほか、時代や状況は異なるものの、浄土真宗の布教拠点の建物が文化財として保存されている韓国の関連史跡を、現地研究者の協力を得て、本年度に実地調査しており、中国調査に向けて比較材料の蒐集につとめている。 最終年度となる2020年は本研究課題の統括として報告書を作成する。報告書の構成は、学術論文、全資料リストのほか、関連年表なども掲載する予定である。また、全資料を掲載した公開用データベースの完成に注力する。なお、課題となるのは発掘に努めた同種資料の扱いで、「小川貫弌資料」と同様にデータベースをWeb上で公開する場合、時間・労力に限界があり、所蔵者の承諾も必ずしも簡単ではないため、報告書内での概要紹介に留めたい。
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Causes of Carryover |
プロジェクトの初年度は、研究のベースとなる資料の基礎調査にウェイトを置いて研究を進める計画を立て、実際に調査は順調に行われ、採取されたデータに基づいてプロジェクトの骨格となる資料データベースも逐次作成されつつあるが、当初、基礎調査を進めていくにあたり、資料の分類整理作業の効率化、および、資料保存の観点から、中性紙封筒などの包装資材を購入し、データ採取と同時に資料を物理的に振り分ける作業を行う予定であった、その資材の購入が果たせなかったため、物品費の使用額が約10万円ほど少なくなった。 資材購入ができなかった理由については、1000点を超える資料点数の多さに加えて、資料形状の多様であったことに起因しており、既成品の包装資材では資料分類作業の用を足すことができず、分類整理を混乱させないよう、適正サイズの包装資材を使用する必要があったからであるが、そのサイズ等の見極めが調査の現段階では困難であったため、初年度での購入を見合わせることとした。次年度、資料の撮影作業にともなって、上記包装資材を購入する予定としている。
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