2019 Fiscal Year Research-status Report
戦前期大阪花街の社会的機能に関する基礎的研究:芸能と社会との関係を中心に
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18K00925
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
笠井 純一 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (80107119)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 路人 大阪大学, 文学研究科, 教授 (40144414)
飯塚 一幸 大阪大学, 文学研究科, 教授 (50259892)
藤田 勝也 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (80202290)
笠井 津加佐 金沢大学, 人間社会環境研究科, 客員研究員 (90747114)
塚原 康子 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (60202181)
岡田 万里子 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 准教授 (60298198)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大阪四花街 / 北陽浪花踊 / 南地芦辺踊 / 堀江この花踊 / 第五回内国勧業博覧会 / 大和屋芸妓養成所 / 邦楽における職業意識 / 花街と社会との関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績としては、まず北陽浪花踊の映像に関する研究がある。劣化したフィルムをDVDに焼き付け、映像から画像を切り出し、踊の動きを分析する資料の作成を試み、試作品の一部を芸能史研究会大会で報告した。北陽浪花踊の振付変更(西川流から花柳流へ)についても、両者の交流の視点から言及をした(6月)。また、北陽浪花踊と堀江この花踊の詞章の比較から、両花街の特徴を考える試論を発表した(9月)。さらに、本研究の目的の一つである花街と社会との接点を知る事例として、第五回内国勧業博覧会(大阪1903)で上演された「新曲浪花踊」(四花街の芸妓が競演した)の実態と各花街への影響を考察した。この成果は科研研究会で報告(9月)したのち、東洋音楽学会でも発表した(11月)。国際学会(第13回中日音楽比較研究国際学術検討会)でも、「邦楽における職業意識の再編」のテーマで報告を行ない、花街での芸妓教育について言及した(11月)。加えて、花街と直接には繋がらないが、戦前期大阪における地歌・箏曲の情況について考察を行い、一部を公表した(3月)。地歌・地歌舞は関西で発祥したものだが、大阪では花街が守り育てた芸能であるからである。 研究と併せて強調したいのは、新史料の発見である。佐藤家史料の悉皆調査によって、北陽浪花踊の舞台関係者らの書信が多数発見された。芸妓扱店(置屋)経営の一端を示す貴重な史料等も検出された。また、南地大和屋が設立した大和屋芸妓養成所の関係史料も調査することが出来た。本科研で蒐集した史料も、一二に止まらない。さらに大和屋における芸妓教育について、聞取り調査(阪口純久氏)も行った。本研究の目的の一つは、戦災で湮滅したと思われていた大阪花街関係史料を発見し、精細な調査を行った上で、社会と学界に還元することである。ただ本年度は発見と調査に止まり、目録作成や史料の紹介を行うには至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を進めるうち二つの課題が生じて来た。第一は研究対象が多岐にわたり、当初の構成員だけでは遂行が困難と思われたことである。そこで2019年度から舞踊研究者に分担者として加わって頂いたが、美術史研究者ならびに音源研究者の協力も必要となったので、本年度は協力者として参加して頂き、研究会を関西で開催した。東京開催も計画していたが、本年の特殊事情により果たせなかった。分担者・協力者はそれぞれの課題について認識を深め、鋭意作業を進めている。 第二は、新たな史料の発見である。まず、本科研の出発点であった北の新地の史料(佐藤家史料)を悉皆調査したところ、新たな書信や文献が検出された。その内容は、これまで把握していた史料を質量ともに凌駕するものであった。また、南地大和屋に伝わる芸妓教育関係の史料を調査することも出来、さらに公共図書館・研究機関などに所蔵される、関係史料の存在も明らかになった。史料調査の回数は昨年度に数倍した。しかしこれら全てを調査し、分析するには至っていない。 研究会での討論や新出史料(一部)の調査を踏まえ、北の新地・南地をはじめとする大阪花街の芸能の在り方、各花街の特色、社会と各花街の関係等について、いくつかの成果を挙げることが出来た。学会発表としては、国内の学会(芸能史研究会、東洋音楽学会)で発表を行い、浪花踊の映像を基とする研究用資料を作成する試みや、花街と社会との接点である第五回内国勧業博覧会(1903)での余興踊と花街の動向について報告した。さらに中国・福州大学で開かれた日中音楽比較研究国際学術検討会(第13回)に招待され、芸妓の養成を含む職業としての邦楽教育について報告を行なった。論文(編著等に収められたものを含む)は、関連するテーマのもの(大阪における地歌・箏曲)を含め5本を発表し、うち4本は金沢大学図書館の機関リポジトリ(Kura)で公開されている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、戦前期大阪花街と社会との関係を各方面から追跡し、大阪花街が社会から孤立した存在であったのではなく、むしろ大阪の経済や文化の活性化と深い関りがあったことを明らかにしようとするものである。この点については、研究がかなり進んだ現在においても、変更する必要を認識していない。但し、当初は欠けていた分野の研究者の助力を仰ぐ必要が生じた。メンバーの充実は、新しい視点と知見を伴った。 今後も研究の進展が予測され、成果も公表されると推測される。しかしまた、本研究が3年間で完結するとの当初の見通しは、大幅な修正を余儀なくされるとの深刻な認識も 、併せて出来した。史料調査と公開にむけての準備(取りあえずウエブ上での公開を考えている)だけでも、さらに多大の作業を必要とする。 研究期間の半ばを過ぎた現時点では、3年間で研究に終止符を打ち、不十分な報告書を刊行するより、残された期間に基礎史料の調査と、基礎研究の蓄積を充分に行い、戦前期における大阪花街と社会との関係を総合的に見通すことが出来るような知見を、構成員全体が得ることが先決と認識している。本年度以降は、このような企図をもって研究会を継続し、相互に情報交換を行いつつ、研究の進展を図っていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染に伴う自粛要請により、3月に計画していた研究会の開催や、資料所蔵者宅での調査を見送った。また、大学・公共図書館・博物館等の臨時休館のため、当該機関に所蔵される資料の調査も、2月後半以降は実施出来なかった。 この情況は、短期間の解消が困難と予測されるので、次年度はスカイプ等を使った研究会なども考慮に入れ、研究の進展を図りたい。
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