2018 Fiscal Year Research-status Report
日本古代における律令官僚制と女官制度成立に関する研究
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18K00936
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
伊集院 葉子 専修大学, その他部局等, 特別研究員 (30812028)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 女官 / 女性豪族 / 官司編成 / 官僚制 / 男女共同労働 / 律令国家 / 王権 / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の律令国家建設は、中国大陸における隋唐統一帝国の誕生と朝鮮半島諸国の動乱という国際情勢の影響を受けて進められた。官僚機構の中核をなす二官八省の成立過程はこれまでも議論されてきたが、律令成立以前の男女共同労働がどのような過程を経て男女別の官司に編成されたのか、その検証はこれからの課題である。 本研究は、7世紀の律令国家建設の流れのなか、どのような論理と過程で男女の官司が分離していったのかを検討することを課題とする。多面的な視点からの検討によって、包括的な律令官僚機構成立過程の解明に資したい。 初年度の2018年度は、7世紀末から8世紀にかけての残存史資料(木簡、金石文、寺社縁起、資財帳等)に記された「ヒメ」号の分析を踏まえ、論文「比売朝臣・姫帝・姫太上天皇―女帝と女官に付された「ヒメ」をめぐって―」をまとめた(仁藤敦史編『古代王権の史実と虚構』所収)。上記史資料の多くは、官司編成に男女区別が持ち込まれ実施された時期の史資料であるにもかかわらず、女官制度史という視点からは分析されていなかった。考察の結果、「ヒメ」号は、列島社会のなかで自然発生的に生まれ幅広く用いられた女性リーダーへの尊称であったが、男女別の出仕法が規定された天武期を画期としてジェンダー記号に転化したこと、律令制に含まれる男系・父系継承の原理を契機にした性差を重視する社会的観念の浸透が、八世紀の諸史資料に見いだせることを指摘した。 また、古代の豪族・貴族女性の官仕を女性労働史に位置づける視点からの考察を行い、「古代女官の特質」をまとめた(総合女性史学会・石月静恵・辻浩和・長島淳子編『女性労働の日本史』所収)。 本研究の課題の一つに古代東アジア諸国の女官制度との比較研究があるが、初年度は、各国における女官研究の到達点を概観し、「古代東アジア女官研究の可能性」と題して講演するとともに、論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、「ヒメ」をキーワードにして、律令官僚機構の構築の過程における女性の位置づけの変化が、名号の中の性差の出現によって確認できることを明らかにした。 さらに、古代東アジアにおける女官制度の比較研究に向け、中国・韓国の研究史を概括し、直近の研究成果をまとめた。これは、古代東アジア女官研究の「序論」ともいうべき論文である。 以上のように、次年度以降の研究を推進するうえでの基礎的な蓄積を得ることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、律令官僚機構成立前後の政治空間に、女性がどのように関与し役割を果たしていたのかを分析する。ここでいう「政治空間」は、国家意志形成の場として定義づける。考察の対象を政務の場と儀礼に絞ることとし、具体的には、①女性の会集に関する法規定と実施記録、②『続日本紀』にみえる儀礼に行立する女性―を抽出・再検討し、そこで明確になるであろう政治空間への女性の参加が、『日本書紀』段階でどこまで遡れるかを考察したい。この考察によって、国家意思形成過程における女性の役割に対する理解が深化すると思われる。 また、唐代の女官に関する中国語圏研究者の論文の日本語訳を進め、公開に向けて準備する予定である。
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Remarks |
伊集院葉子「関口裕子著『日本古代女性史の研究』によせて」『経済』276号 伊集院葉子,野村育世,義江明子「第33回女性史青山なを賞記念寄稿「関口裕子氏の学問と現在」」『東京女子大学女性学研究所年報』29
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Research Products
(6 results)