2019 Fiscal Year Research-status Report
日本古代における律令官僚制と女官制度成立に関する研究
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18K00936
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
伊集院 葉子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (30812028)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 女官 / 女性豪族 / 官司編成 / 官僚制 / 男女共同労働 / 律令国家 / 王権 / 東アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の律令国家建設は、中国大陸における隋唐統一帝国の誕生と朝鮮半島諸国の動乱という国際情勢の影響を受けて進められた。官僚機構の中核をなす二官八省の成立過程はこれまでも議論されてきたが、律令成立以前の男女共同労働がどのような過程を経て男女別の官司に編成されたのか、その検証はこれからの課題である。 本研究は、7世紀の律令国家建設の流れのなか、どのような論理と過程で男女の官司が分離していったのかを検討することを課題とする。多面的な視点からの検討によって、包括的な律令官僚機構成立過程の解明に資したい。 2019年度は、律令官僚機構成立前後の政治空間に女性がどのように参加し役割を果たしていたのかを分析した。ここでいう「政治空間」は、国家意志形成の場として定義づけた。考察の対象を、政治が象徴的に可視化される儀式・儀礼に絞り、①男女の会集に関する法規定のジェンダー分析、②『続日本紀』における儀式・儀礼の実施記録の抽出・再検討――を行なった。この結果、儀式・儀礼に対する王権の意図と目的が、男女の参加範囲を規定し、女性の参加を求める要因となったことを明らかにした。このような政治空間への女性の参加は、いうまでもなく政治への女性の「参画」であるという見通しから、『日本書紀』段階でどこまで遡れるかを考察し、論文にまとめた。学術論文誌に投稿し、現在査読中である。 また、唐代前期の女官の政治参与と官僚化に関する中国語論文(鄭雅如著「唐代前期預政女性身分的官僚化:従上官婉兒墓誌談起」)を日本語に訳し(「鄭雅如著・陳蕾訳・伊集院葉子補訳「唐代前期の女性の政治参与と身分の官僚化―上官婉兒墓誌を中心に―」)、オープンアクセス化した。古代東アジア諸国の女官制度の比較研究は、本科研研究の課題の一つであり、古代東アジア政治史のジェンダー分析にも資するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、律令官僚機構成立前後に女性がどのように政治に参画したのかを、儀式・儀礼を対象として分析し、国家意思形成をはかる王権の目的が、男性だけではなく女性の参加を求める契機となったことを明らかにした。これは、律令国家成立期の男女の政治参画のあり方を解明するにあたって基礎となる成果である。 また、日本語訳した鄭雅如氏の論文「唐代前期の女性の政治参与と身分の官僚化―上官婉兒墓誌を中心に―」は、高宗朝に、妃嬪を含めた女性たちが皇后の官僚として編成されたのち、武則天治世下に輔政者としての役割を担い、中宗・睿宗朝に官僚化していった経緯を詳細に明らかにしたものである。新出の上官婉兒墓誌をジェンダー視点で分析し、歴史書とは異なる唐代女官像を提示した。その翻訳とオープンアクセス化は、古代東アジア女官制度の比較研究に資するとともに、研究成果を広く公開することによって国際的な到達点を共有する一助となるものであり、今後の研究の進展に有意義である。 以上のように、次年度以降の研究を推進するうえでの基礎的な蓄積を得ることができ、さらに広くフィードバックすることもできたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、律令官僚機構成立前後の女官制度の成立過程の分析を行なう。 とくに、6~7世紀の東アジアの諸制度の比較検討を踏まえ、「采女」制度の成立過程を考察していきたい。
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Research Products
(4 results)