2018 Fiscal Year Research-status Report
宮内庁所蔵『王公族実録資料』の機密文書に関する研究:閔妃暗殺事件後の大韓帝国皇室
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18K00941
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
新城 道彦 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 准教授 (40553558)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 王公族実録 / 高永根 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、宮内省(現宮内庁)が『王公族実録』を編修するために収集した膨大な史料群である『王公族実録資料』を解読・データ化して一般に公開するとともに、膨大な史料群の中に埋もれた機密文書を用いて、韓国併合直前の大韓帝国皇室の動向、具体的には閔妃暗殺事件以降の大韓帝国皇室における権力闘争、およびそれに日本がどのようにかかわっていたのかを解明することにある。 平成30年度は『李太王実録資料』のデータ化を進め、第1巻から第14巻までの「資料番号」「資料名」「件名」「年月日」「執筆者」「宛先」の入力を終えた。今後は各書類のキーワードを入力し、検索しやすくする。また、データ化の過程で、解読不明な文字があったため、他の史料と比較するなどして解読を進める。 これと並行して、『李太王実録資料』内の高永根関連資料(「皇貴妃厳氏譜略」「機密第九三号 高永根還送ニ関スル具申」「高永根事杉本高正申立ノ件」「発第一〇九号 高永根身分ニ関スル件回申」「乙未亡命者関係書類」)を抽出し、渉猟した。今後は『李太王実録資料』以外の関連する資料を収集し、閔妃暗殺事件以降の大韓帝国皇室に関する論文を執筆していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『李太王実録資料』の基本情報を入力し終えており、また高永根関連資料の抽出および渉猟を終えたので、おおむね順調に進展しているといえる。 高永根は禹範善を殺害する前年に危険を承知で韓国に帰ろうとしていた。このとき高宗は兵と巡検を仁川に派遣して待ち構えていたので、もし高永根が上陸していれば間違いなく逮捕・処刑されており、後に日本で禹範善を暗殺することなどなかったであろう。ところが、高永根は仁川に上陸することなく、再び日本に戻っている。高永根関連資料のうち、「機密第九三号 高永根還送ニ関スル具申」を分析した結果、厳氏が林権助特命全権公使と結託して高永根の帰国を妨害したことが明らかとなった。その理由を林公使は「民間ニアリシ際」に高永根のもとで養われ、「私生児」をもうけたからだと述べている。もと内人だった厳氏は側室候補者である承恩尚宮に昇格したときに王妃閔氏の嫉妬で宮中から追放されたことがあった。「民間ニアリシ際」とはこのときを指しているのであろう。林公使が「本使ニ於テモ当時ノ右関係ヲ承知致居候」としているので、荒唐無稽な話しではなかったことがわかるが、さらなる調査により情報の確度をより高める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
『李太王実録資料』内の各書類に登場する人物や事件などのキーワードをデータに記入し、検索しやすくする。また、『李熹公実録資料』『李埈公実録資料』のデータ化も合わせて進める。 高永根関連の資料、たとえば、『日本外交文書』の「禹範善殺害ノ陰謀露顕ノ件」「禹範善殺害事件取調報告通牒ノ件」「禹範善殺害ニ付キ韓廷ニ於テ祝宴ノ件」などを収集・渉猟し、『李太王実録資料』の史料と合わせて高永根と大韓帝国皇室との関係性を分析していく。 また、「乙秘第五三九号」を分析した結果、「英親王〔李垠〕将来ノ慶運ヲ図ランカ為メ其妃トシテ日本皇室ヨリ皇女ヲ迎ヘントスルノ希望嚴妃及其一族ニ在リ。〔中略〕英親王ニ我国皇女ヲ迎ヘントノ事ハ故佐々友房カ存命中或ル韓国ノ大官ニ対シ一場ノ座談トシテ今ヤ韓国政府ハ統監府ノ保護ヲ受クル事トナリタルヲ以テ我帝室ニハ皇女ノ多クアラセルヽ事ナレハ韓皇室ヘ皇女ヲ迎ヘラルヽニ於テハ両国ノ関係一層深厚ニ至ラント語リタル事アリ。今ヤ嚴妃モ己ノ実子タル英親王ノ為メニ万一佐々ノ談ノ如クナルヲ得ハ大ニ将来利益ナラントノ希望ヲ有シ居ラルヽ由ナルモ到底成功覚束ナキモノトナリ〔…〕」という情報が書かれていた。厳氏のこのような政治的動向はこれまで注目されてこなかったため、高永根との関係を分析するうえで重要となってくる。今後、より詳細に分析していく。
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Causes of Carryover |
朝鮮関連資料を多数所蔵する岩瀬文庫の調査を計画していた。しかし、2018年度に学内で2つの委員長をかけ持つこととなり、十分な研究時間を確保できなくなった。それゆえ、出張を断念し次年度使用額が生じた。2019年度には研究時間を確保して調査を進め、資料を論文執筆に活用したい。
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Research Products
(1 results)