2018 Fiscal Year Research-status Report
Study on the Fatimid Caliphate based on documentary sources
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18K00984
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
亀谷 学 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (00586159)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カリフ / イスラーム史 / ファーティマ朝 / 貨幣 / パピルス文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の第一年度として、ファーティマ朝における貨幣史料、碑文史料、文書史料の情報の整理、および、データベースの構築に着手したが、その中でも貨幣データベースを中心に作業を行った。そこで得られた成果に基づき、これまでファーティマ朝研究の中でも等閑視されてきた銀貨発行について、セビリアで開催された世界中東学会(World Congress of Middle Eastern Studies 2018 (University of Seville, 2018/07/15-20))において、“Use of Silver Coins in the First Centuries of Islamic Egypt: An Analysis based on Arabic Papyrus Documents”という題目で報告を行った。そこでは、ファーティマ朝に至るエジプト社会における銀貨の役割とそれがファーティマ朝政権の中で分数単位で扱われていたことについて分析した。 また年度末には、イスラーム初期史研究会(2019/03/24)において、作成した貨幣データベース等をベースとした報告「ファーティマ朝カリフ政権における貨幣発行―アッバース朝初期との比較への視角から―」を行った。その中では、ファーティマ朝カリフ政権で発行された貨幣に刻まれた銘文を分析し、ファーティマ朝カリフ政権が貨幣というメディアにおいてどのように自らを規定していたかについて、包括的な検討を行った。その成果の一端として、ファーティマ朝第十代カリフであるアミールの時代において行われた改革を再考することで、ファーティマ朝後期における貨幣を通じてカリフ概念の構築について捉え直すことができることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
第一年度において国際学会である世界中東学会(World Congress of Middle Eastern Studies 2018 (University of Seville, 2018/07/15-20))において報告を行うことができたことは当初の計画以上の成果といえる。この報告に基づいた論文を第二年度において国際誌に投稿すべく準備中である。 また、私家版にも近い稀覯本であったD. Nicol, Corpus of Fatimid Coins(Trieste, 2006)を幸運にも入手することができたため、ファーティマ朝貨幣に関する情報を効率よくデータベース化してゆくことが可能となった。このことにより、次年度に予定されている学会報告のベースとなる報告を、第一年度中に国内の専門家が集まるイスラーム初期史研究会にて行うことができた。これについても当初の計画以上の進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一年度においては、学会報告および貨幣データベースの構築を中心に行ったため、イギリス、エジプトでの調査については第二年度に行う予定である。 イギリスにおける調査では、関連史料を多く所蔵するイスマーイール学研究所(The Institute of Ismaili Studies)において文献調査を行う。その調査の成果をもとに主にイスマーイール派の思想の中でカリフ概念・統治理念と実際にファーティマ朝カリフにおいて発信されていたカリフ概念の比較を通じて、思想的背景と現実的な統治の差異について検討する。その際、①ファーティマ朝がエジプトを征服した時期、②ファーティマ朝の拡大が停止した時期、③十字軍等の襲来が生じた時期などの各時期が、カリフ概念の転換期として想定されるため、それらの前後の時期におけるカリフ概念及び制度の変化を重点的に検討することになる。 一方、エジプトでの調査においては、ファイユーム大学に新設されたイスラーム古銭学センター(Islamic Numismatic Center)を訪問して関連情報を得るほか、イスラーム建築を専門とする日本学術振興会カイロ研究連絡センターの深見奈緒子センター長の協力を仰ぎ、未刊行の碑文について実地調査を行う予定である。それらの成果をもとに、貨幣史料・碑文史料のデータベースを整備し、ファーティマ朝期全体を見た際のカリフ概念の変遷について考察を行い、学会等で報告を行う。 その他、第一年度に行った学会報告をもとに国際誌等への投稿を行ってゆく予定である。
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Causes of Carryover |
第一年度において行う予定であった海外資料調査について、当初2019年3月の実施を予定していたが、①貨幣史料データベースにかかわる基礎史料を入手することができ、それをもとにした作業を優先的に行ったため、②2月半ばより体調が優れず、海外資料調査をより万全の形で実施することが望ましいと判断したため、第二年度である2019年度に実施することとした。 第二年度には上記の事情を踏まえて、2019年7月にはイギリスにおける資料調査を行うとともに、イスマーイール学研究所(The Institute of Ismaili Studies)を訪問して、情報交換を行い、今後の共同研究を模索する。また、エジプトにおいても資料調査と並行して、ファイユームのイスラーム古銭学センター(Islamic Numismatic Center)を訪問し、情報交換を行う予定である(時期は未定であるが2019年9月、2020年2月のいずれかで調整中)。
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Research Products
(2 results)