2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Kinship Groups in the Pre-Qin Period: The Fixed Point Observation from the Chu Area Using Historical Manuscripts of the Qinghua Bamboo-slips
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18K00989
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小寺 敦 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (30431828)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 清華簡 / 子犯子餘 / 晋文公 / 鄭武夫人規孺子 / 先秦時代 / 血縁 / 楚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は3年の期間内に楚地域に視点を置いた先秦時代血縁集団研究を進めていくことを目的としており、これはいわば先秦時代におけるミクロな視点からの定点観測である。そのためには楚地域出土と目される清華簡の釈文を作成し、それら資料の概要を把握して本研究を進める基礎とせねばならない。そこで1年目は『子犯子餘』『晋文公入於晋』の釈文を作成を進めることとし、その公表については翌年以降の機会を待つこととした。またその内容を他の先秦出土文献や先秦時代の成書の可能性がある部分を含む主要な伝世文献と比較検討するため、これら文献に関連するテキスト型データベースを作成した。本年度11月には京都の日本秦漢史学会2018年度大会で報告した「楚からみた晋ー清華簡『子犯子餘』を起點としてー」はこうした成果に直接基づき、清華簡『子犯子餘』を中心資料として、これに『晋文公入於晋』などの清華簡諸篇や伝世文献とも比較検討し、それら諸資料における晋文公とその側近との描かれ方の異同から、戦国時代の楚において、楚とは異なる血縁集団で楚が敗北した敵だったはずの晋文公たちは現前の三晋諸国やそれに近い時代の晋国と切り離されて認識されていたことを論じた。本年度末には、『子犯子餘』などと同じく歴史説話であることにより本研究に関連する清華簡の一篇に関する釈文「清華簡『鄭武夫人規孺子』訳注」(『東洋文化』99)を公開した。またそれに関連して9月に中国の武漢大学における国際学会「楚文化与長江中游早期開発国際学術研討會」に参加し、「関於清華簡《鄭武夫人規孺子》中所描絵謙遜的君主形象」を発表し、清華簡『鄭武夫人規孺子』で強調され、伝世文献には記録されない鄭武公・荘公の君主としての謙る姿勢が、春秋時代以前の血縁に基づく社会では君主として通常の行為であったものが戦国時代に入って王權を支える道具の一つとなったことを示すことを述べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画において1年目に行う予定であった、清華簡『子犯子餘』『晋文公入於晋』の釈文の作成自体は終了しており、あとは発表の場を用意する段階にある。そしてこれら釈文の作成と並行して、その内容を郭店楚簡・上博楚簡などといった簡牘や金文資料を含む関連資料の豊富な先秦出土文献、および『左伝』・『国語』などといった先秦時代の成書、もしくはその可能性がある部分を含む主要な伝世文献と比較しつつ、血縁集団に関連する要素、例えばそこに描かれる人物相互の関係性や血縁に関する思想等を検討するためのテキスト型データベースの作成も行い、またそういった釈文やデータベースを利用した研究報告も行っている。このことは、本研究の関係資料の概要を把握して研究を行っていく基礎が着実に固められつつあることを意味する。また当初の研究計画では、血縁集団の側面から、これら楚地域由来と目される出土文献と、汎地域的な要素を強く持つと考えられる伝世文献との資料的性格との異同を明らかにし、そうすることによって、先秦時代の楚地域における血縁集団の特質や汎地域的なその共通点を見出し、更にその結果として、先秦時代における血縁集団をめぐる政治的・社会的・思想的な状況が明らかにされることを目指していた。既に行った学会・シンポジウム報告では、楚地域の出土であることが議論される清華簡諸篇を主要な資料として利用し、『左伝』『国語』などをはじめとする伝世文献と対比しつつ、個々の文献における鄭の君主の態度(清華簡『鄭武夫人規孺子』)や晋文公とその側近たち(清華簡『子犯子餘』『晋文公入於晋』など)の描かれ方の異同を分析することにより、楚地域を中心とした先秦時代の諸事象のあり方が次第に見えつつあり、上記の目標が実践されつつあるといえる。以上により、本研究課題の現在までの進捗状況は、当初計画通り、おおむね順調に進展しているものと認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、第1年目にほぼ計画通りに遂行することができたため、第2年目は基本的に当初の研究計画通りに進んでいくことになる。清華簡の釈文作成については、当初の研究計画においては2年目は『趙簡子』『越公其事』前半としていた。しかし、代表者の関係する研究グループに属する研究者が既に『趙簡子』の訳注を発表しており、現時点の状況において新たにそれを作成して公開する意義は薄れている。それでも出土資料研究においては常識的なことであるが、研究者が自ら釈文を作成する意義自体は存在するため、当初の計画通りに行うべきか否か迷うところがある。そこでひとまず『越公其事』の釈文の作成を先に行うことにしたい。出土資料研究においては、新資料の公表や研究の進展によって釈文を含む過去の研究が修正を迫られることは日常茶飯事であるから、『趙簡子』に取り組む時期を遅らせて、機会が熟するのを待つこととする。そして1年目に作成した『子犯子餘』『晋文公入於晋』の釈文を公開することを考えている。その際、当然のことではあるが、2年目において当該資料に関する研究の新展開があれば、その展開に伴う成果を取り入れて、もとの釈文に追加・修正することにしたい。年度ごとの、出土文献の釈文を作成するたびに、その内容を先秦出土文献や先秦時代の成書可能性のある部分を含む主要な伝世文献と比較しつつ、血縁集団に関連する要素を検討し、そこから抽出された個々のデータをテキスト型データベースとして整理する作業も行う。以上の成果により、血縁集団の側面から、これら楚地域由来と目される出土文献と、汎地域的な要素を強く持つと考えられる伝世文献との資料的性格の異同を明らかにし、それによって先秦時代の楚地域における血縁集団の特質や汎地域的なその共通点を見出し、先秦時代における血縁集団をめぐる政治的・社会的・思想的な状況を明らかにする作業もやはり進めていく。
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