2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K00997
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
土口 史記 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (70636787)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 里耶秦簡 / 岳麓秦簡 / 簡牘 / 監察 / 御史 / 監御史 / 執法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も里耶秦簡・岳麓秦簡を中心とする新出簡牘資料の整理分析を主たる作業とし、秦漢時代の地方監察体制についての研究を進めた。 成果の一部は、「秦代地方支配途徑再探」(『楚文化与長江中游早期開発国際学術研討会論文集』武漢大学出版社、2021年)として公刊された。そこでは、秦の新占領地域にはこれまで知られていた御史のほか、丞相史や廷尉史といった中央から派遣された官が地方監察に訪れていたことを出土簡牘から確認し、それらが「郡県」の統治能力の不足を補う手段となっていたことを論じた。そのうえで、秦は「皇帝による郡県支配」を志向していたと結論づけた。皇帝と郡県とのあいだを結ぶ統治経路の具体像がこれによって一層明らかになったと考える。 これを踏まえつつ、特に監察の中心となったであろう御史と監御史についても、より詳細な検討を進めた。従来、御史の研究は前漢武帝期以後の御史大夫と御史中丞に関心が集中しており、秦~漢初にかけての研究はほとんど存在しなかった。しかし、2020年に出版された『岳麓書院蔵秦簡』第6分冊に含まれる秦律令によって、秦代の御史およびそれに類似した職掌を有する執法について新たな発見があった。例えば、執法を長官とする司法管区の存在が確実視されること、郡県における裁判を監察する監御史には一定の免責範囲があったこと、郡監御史以外の「職事御史」が地方監察を担ったことなどを確認した。現在、これらについてまとめた論考を執筆中である。 また監察研究の副産物として、秦の県内における会計監査の結果作成される「録」という簡牘文書に関する知見を「秦漢の「録」とその周辺」としてまとめ、公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関連史料の出版が中国で順調に続いていることから、最新史料に基づいた研究を進めることができた。特に御史と監御史については本研究の中心を為す検討対象であり、これについて順調に整理を進め、論考をまとめつつある。 新型コロナウイルスの感染拡大により、中国現地での発表や交流の機会がなくなったが、オンライン国際学会などの機会を通じ、現地研究者からの批評を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
岳麓秦簡の第7分冊がまもなく出版される予定であるため、引き続き秦代の簡牘資料に基づいた監察体制研究を行う。最終年度となるため、秦から漢代にかけての監察体制の展開について論考にまとめる予定である。現時点までの検討の結果、前漢武帝期を必ずしも絶対の画期とはみなさず、むしろそれにとらわれない新たな監察制度史を描きなおす必要があるとの認識を得ている。この見通しに基づき、監御史から刺史に至るまでの監察官の沿革について新知見をまとめ、研究の総括としたい。 一方、秦代に関しても依然として御史・執法・監御史の職掌分担について不明な点が残る。とりわけ郡レベルの統治機構についての研究は不十分であるため、この不足を埋めることが今後の課題となる。あらためて岳麓秦簡「秦律令」に見える郡関係条文の整理を進めることとしたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、国内外での発表機会が減少し、それに伴って一部の旅費および翻訳費が不要となったため。
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Research Products
(5 results)