2020 Fiscal Year Research-status Report
Actual Condition of Acceptance of Ming and Qing law in the Le Period, Vietnam
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18K00999
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
八尾 隆生 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (50212270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 『国朝刑律』 / 黎朝 / 黎聖宗 / 貶資 / 充軍 / 五刑 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴェトナム前近代法制史においては二つの通説とされている事柄、①15世紀前半に成立したヴェトナム黎朝の根本法である『国朝刑律』が、黎朝前期の最盛期を築いた5代聖宗期(1460-97)の「洪徳律」に概ね基づくものである、②「黎朝根本法」すなわち『国朝刑律』とそれに続く「阮朝根本法」である『皇越律例』には大きな「断絶性」がある、が存在する。 本研究ではそれらが厳密な資史料考証を経たものではないと批判し、そもそも『国朝刑律』は廃止の可能性があったこと、既に黎朝後期には根本法の実態を有していなかったことを明らかにし、ついで黎朝後期の他の法令集と明清法との比較分析を行うことにより、明清法の影響力の大きさを示し、清律の丸写しに等しいとされる『皇越律例』とそれらの法令にはさほどの「断絶性」は無いことを示すことで、上記二つの通説を退け、新しいヴェトナム前近代法制史像を構築することが目的である。 かつてフランス極東学院が収集した典籍を現在保管している漢喃研究院(於ハノイ)には、同時代に単発的に発布された法令を集めた政書の存在がいくつか知られる。莫氏が聖宗期に新たに公布された法令を集めた『洪徳善政』(ただし公布が収集の直接目的ではなく、莫朝独自の刑律編纂のための資料であったと考えられる)、黎朝後期の『国朝洪徳年間諸供体式』、『国朝詔令善政』などがその一例である。そしてそれらの中にはやはり聖宗期の追加法を収集したものがいくつか見られる。これらの法は明律及びその追加法(問刑条例)の影響を受けたものが多く、やはり『国朝刑律』とは相容れず、結果として名目上の根本法と、根本法と理念を異にする条文を含む追加の法令が混在していたと考えるのが妥当であろう。 今年度は『国朝刑律』の校合本を完成させ、さらに『皇越律例』との刑罰体制を俘獲した結果、爵位を降格させる「貶資」制度が後者にはなく、黎朝後期に消滅したことを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究の大元である『国朝刑律』は2020年に完成し公刊したが、それをもとにした黎朝期の刑罰体系の研究や他法令書との比較は、コロナ禍によりヴェトナム渡航が不可能となったため、既存の史料を利用した刑罰体系の一つである「貶資」の研究にとどまらざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間を一年延長し、既存史料の電子化を継続する一方、刑罰体系の一つである「充軍」に対する考察を済ませた後、本科研の研究発展を目的とした基盤研究(B)(一般)「ベトナム近世文書の東アジア文書世界における位置づけ」にて黎朝後期に出された法制・行政文書の雛形集を継続して比較分析する。 幸い、同科研の研究協力者がヴェトナム在住中で、史料の追加収集にめどがついている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、ヴェトナムにおける新出史資料の調査収集は断念し、本科研の補助金はほとんど使用せず、私費にて校合本『國朝刑律』を公刊した。2021年度はヴェトナムに別科研の研究協力者(もと研究者の博論指導生)が在留中のため、彼に依頼して本年度予定していた史資料の収集費および謝金に充てる。
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