2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01007
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小松 香織 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10272121)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オスマン帝国 / トルコ / 福祉 / 年金 / イスラーム社会 / 近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、オスマン帝国において近代的な社会保障システムとしての年金制度が、いつから、どのような形で整備されていったのか、また、それがトルコ共和国にどのように継承されたのか、さらに、こうした制度が人々の生活にどのような影響を及ぼしたのかについて、オスマン帝国・トルコ共和国の公文書と公営・私営企業が所蔵する一次史料、新聞・雑誌等を手掛かりに考察し、イスラーム社会における社会保障のあり方、オスマン帝国末期からトルコ共和国初期の社会の実像、具体的には家族や就業のあり様といった人々のくらしの実態を明らかにしようと試みるものである。同時にオスマン帝国とトルコ共和国の連続性に関する議論についても、社会史的観点から新たな見解を提示することを目的とする。 令和3年度も昨年同様コロナ・パンデミックのため予定していたトルコ共和国での史料収集を実施することができなかった。そのため研究計画を変更し、以下の2つのテーマを設定して、各々についてこれまで収集した一次史料のデータベース化と一部の史料の解読・分析を行った。 第1のテーマは近代西欧型の年金制度が導入される以前のオスマン帝国における年金制度や社会福祉の歴史を先行研究や公文書によって明らかにするというもので、主にオスマン朝文書館所蔵の公文書のうち年金の支給に関する史料のデータベース化を行った。 第2のテーマは戦時下における年金支給の問題と20世紀初頭のオスマン社会における庶民の家族のありように関するもので、史料として用いるのはトルコ共和国文書館所蔵のオスマン海運の経営会議議事録(1911-22年分、この間オスマン帝国は絶え間ない戦争の渦中にあった)の中で年金支給について議論された部分である。 本年度は特に第2のテーマに重点を置き、当該史料の解読と分析を行って研究ノートを作成し、その成果を論文にまとめて学術雑誌上で公開した(研究成果参照)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
トルコ共和国での史料調査が実施できなかったため、予定していた史料の収集およびすでに入手した史料について不明箇所の確認作業をすることができなかった。そのため本年度中に終了する計画のデータベース作成が進展せず、次年度に先送りせざるを得なかった。ゆえに十分な史料的裏付けにもとづいて結論を導くに至らず、仮説を立てた段階にとどまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究をすすめるにあたっては、(1)オスマン帝国における年金制度の成立の経緯と制度の実態の解明、(2)年金制度が個人の人生に及ぼした影響の考察、という2つの大きなテーマを設定し、定量的かつ定性的な分析を行う。 (1)について、最初に制度が導入された公務員と軍人に対する年金について、その背景、法律の制定・内容、運営の実態、問題点を明らかにする。主な史料としては、オスマン朝文書館所蔵の勅令、国政会議文書、枢機勅令簿、ユルドゥズ文書等の公文書とオスマン帝国法令集、官報、新聞・雑誌等を用い、データベースを構築し分析を行っていく。 (2)について、年金受給者の個人記録文書をできるだけ多く収集し、パーソナル・ヒストリーの集積から全体像の把握に繋げていく。前年度行ったカタログ調査で、オスマン朝文書館所蔵の史料の中で、特定の公務員や軍人に関する年金関連の記録が2千以上に及ぶことが確認されたので、今後これらの文書を収集し活用していく。 令和4年度は最終年度であるため、可能であれば夏期にトルコでの史料調査を実施してデータベースの完成をめざし、上記史料を駆使して目標とする成果を得るつもりである。 同時にオスマン帝国の軍事・教育・福祉という3分野の近代化について問題関心を共有するトルコ人研究者たちとの共同研究を推進し、議論を深め発展させていく。
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Causes of Carryover |
コロナ・パンデミックの影響により海外調査が実施できず、海外旅費が発生しなかった。今年度は可能であれば複数回海外調査をする予定で、次年度使用額を海外旅費として使用したい。
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Research Products
(1 results)