2019 Fiscal Year Research-status Report
船乗りたちの「語り」から読み解く近世イングランドの海事史研究
Project/Area Number |
18K01033
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井内 太郎 広島大学, 文学研究科, 教授 (50193537)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | R.エデン / ギニア航海 / 船上文化 / 船上経済 / 船上遺言書 / 海事高等裁判所 / 大航海時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、16世紀の大航海に関わった船員たちの船上文化について、2つの研究を行い、いずれも単著論文として公開した。 (1) 船員たちの語りから見るギニア航海 1553-1565 16世紀半ば(1553-1565)に9回行われたギニアへの航海と交易のうち、第1回航海(1553-1554)の実態について検討した。 この航海は「出港時の140名のうち、無事に帰国できたのは40名に満たなかった」といわれており、これまでのイングランドの航海史上、類を見ないほどの死亡率であった。にもかかわらず、その後も航海が継続されたことは、それだけ、ギニアの交易品(金、象牙、胡椒など)の魅力が、貿易商人や船員たちを突き動かしたのであった。次に、船上遺言書の記述内容の分析から、長期に渡る航海を通じて、船員たちの間に共同体意識が高まり、独特の船上文化を形成していったことが明らかとなった。 (2) R.エデンの記述から見る16世紀イングランドにおけるギニア航海像 エデンが著した『新世界ないし西インドに関するここ数十年の記録』に描かれた、彼のギニア航海像、さらにそこから見えてくる船員たちの船上生活について検討を行った。エデンが描いたギニア航海の成功物語は、ロンドンの商人や船員たちの関心を引きつけることになった。ギニア航海は、多くの犠牲者を出す中で、船員たちが航海に必要な経験値を積み上げ、独特の船上文化を形成した。確かにギニアから持ち込まれた交易品の数や量は限定されていたが、ロンドン市民にとって、非ヨーロッパ世界が身近に感じられ、彼らのそれまでの世界観やライフスタイルに、少なからぬ影響を及ぼしたのである。その意味で、16世紀半ばに行われたギニア航海は、その後の大西洋交易圏を予見させるものであり、その一大実験場であったのである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 史資料の渉猟状況 16世紀のギニア航海に関わる二次文献に関しては、ほぼ収集を終え、読み込みを行っている。また本課題研究の主要資料である船上遺言書については、The National Archiveでほぼ収集をおえているが、海事高等裁判所の船員の証言記録は多岐に渡っているため、引き続き収集を行う。 (2) 学会発表 本年度の成果について、2019年8月10日(土)に広島西洋史学研究会大会において報告を行った。 (3) 成果発表 以下の単著論文を刊行した。「船員たちの語りから見るギニア航海 1553-1565」『西洋史学報』46号、令和元(2019)年8月1-26頁。「R.エデンの記述から見る16世紀イングランドにおけるギニア航海像」『史學研究』305号、2020年3月、161-180頁。以上のことから、課題研究はおおむね順調に進展しているものと評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1) シンポジウムの開催の延期 最終年度は、「近世世界における船乗りの船上文化に関するシンポジウム」を、日本史・東洋史の研究者とともに開催する予定であったが、学会自体が中止となったので断念せざるをえない。あらためて2021年度10月に開催予定なので、それに合わせて準備をすすめていきたい。今年度後期の各種学会・研究会の開催状況をみて、それに代わる個別報告が可能であるのか見極めていきたい。 (2) 史料の渉猟 海事高等裁判所の証言記録は、ロンドンの国立公文書館(The National Archive in Kew)が所蔵しているので、夏以降に同公文書館での閲覧が可能であるのか見極めていきたい。それがかなわなければ、現在ある史料で、最終成果ならびに最終報告書を作り上げていくことになる。 (3) 研究の推進 船上遺言書、海事高等裁判所の証言記録を分析しながら、近世イングランドの船員たちが形成した独自の海事共同体、船上文化や船上経済のあり方について明らかにし、陸の農村共同体との比較検討を行う。
|
Causes of Carryover |
適正な執行を行い、端数が残り、次年度使用額が生じた。令和20年度の予算と御合わせて消耗品に使用する。
|
Research Products
(3 results)