2022 Fiscal Year Annual Research Report
The maritime History in early modern England~the analesys of seamen's narrative~
Project/Area Number |
18K01033
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井内 太郎 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (50193537)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 船乗り / イングランド / 遺言書 / ギニア航海 / 海事共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず「16世紀イングランドの船乗りと海事共同体」と題した単著論文を『史學研究』312号に発表した。 では研究期間全体を通じて実施した研究成果をまとめてみよう。本研究の目的は、①無数の船乗りのナショナルな物語に回収しきれない、多様な姿やアイデンティティを掘り起こし、②彼ら独自のネットワーク、心性、文化空間を再構築し、③これまで過渡に陸中心的なイメージで叙述されてきた近世イングランドの歴史像について、よりバランスのとれた多様な像を描くことにあった。研究期間内にえた成果は、以下の通りである。(1)船上遺言書の史料論的検討。遺言書には、本人と証人の氏名、死亡日時のみならず、財産(賃金、船内の所有物、交易品、貸借関係)の遺贈、船員たちの社会的ネットワークなど重要な情報が溢れていることが明らかになった。(2)16世紀半ばの西アフリカのへの航海と船上共同体の実態。本研究では1553~1565年に9度行われたギニア航海を具体的検討対象としたが、参加した1,000~1,500人の船員のうち、300~500人が航海途上で亡くなっている。大航海時代に船上遺言書の数が増加してくる背景には、こうした死亡率の急増があった。(2)遺言書の内容の特徴。その内容の殆どが船内における船員同士の貸借関係に関するものであり、船内では信用経済に基づく活発な経済活動が行われていたことが明らかとなった。(3)近世イングランドの海事史の再構築。確かに船員は自律的で自由に遍歴する存在であったが、実際には独特のサブカルチャを持つ海事共同体内における彼らの間の絆は強かったのである。1585年に対スペイン戦争が勃発すると、エリザベス時代の海事共同体は、多大なる圧力や緊張を経験することになった。しかしながら、変革が彼らにとって、得策であろうとなかろうと、彼らは慣習や伝統的実践行為を執拗なまでに守ろうとしたのであった。
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Research Products
(4 results)