2019 Fiscal Year Research-status Report
パレスチナにおけるドイツ・ユダヤ人社会の研究1933-1948
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18K01034
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
長田 浩彰 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40228028)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Jecke / Hitachdut Olei Germania / ナチ期のパレスチナ / シオニズム / ドイツ・ユダヤ人社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
1933年から第二次世界大戦中の41年までにドイツから出国したユダヤ人は約27万人であり、その内5万人強はパレスチナに向かった。イスラエル建国(1948)以前 のパレスチナにはドイツ人も住み、ナチ党の支部すらあった。ここは「新たな離散の地(Diaspora)」だったとは言えまいか。そこで彼らは、どのような生活を 送ったのか。本研究は、21世紀になって出版され始めた回顧録やイスラエルの文書館史料、当時の定期刊行物やハンブルク大学やヘブライ大学オーラルヒスト リー部局のインタビュー資料も利用して、その解明を試みる。 本研究の研究実施計画の第1段階(2年間)では、主に活字となった史料や研究文献、回想録等の収集と読解・分析を行う。本年度は、1933~39年までのドイツからのユダヤ人の出国に関するラヴスキーによる研究成果(2017)を踏まえた上で、彼らの都市での就業に関する1936年の調査や、ベーリングが1967年の学位論文に際してイスラエルで行った彼らの入植村に関する調査(1957~58年)を分析材料として、都市や中間層入植村、集団農村(キブツ等)における彼らの生活状況や、シオニズムやヘブライ語、東欧ユダヤ人に関する彼らの意識に関する分析を行った。その結果、彼らがパレスチナ・ユダヤ人社会内でもなお、ドイツ文化を保持するマイノリティであり、彼らにとっては、パレスチナも「新たな離散の地の1つ」としてナチ政権下のユダヤ人の一部が向かった地域であった、という仮説証明に一歩近づいたと言える。 具体的成果については、2019年6月16日、高知大学で開催された中国四国歴史学地理学協会2019年度大会・西洋史学部会において報告し、『史學研究』第305号(2020年3月31日発行)に「第三帝国期のパレスチナにおけるドイツ・ユダヤ人社会 (1933-39)」と題して掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
回想録やインタビュー資料の読解と分析に着手する前に、まず、ナチ・ドイツからのユダヤ人の出国状況に関して、H.Lavskyによる最新の研究成果を吸収し、 彼らの都市での就業に関する1936年の調査や、パレスチナでの彼らの個人農場への入植に関する1938年の調査、さらに、E.Belingが学位論文執筆のために1957・58年に行った、イスラエルにおけるドイツからのユダヤ人 移住者の生活状況調査の資料から、彼らのイスラエル社会への同化状況を計量的に把握する方向で、現在研究を進めている。つまり、この点からも、シオニズム というイデオロギーが、移住先を決める際や、そこでの生活を続けるなかで、どれ程の影響力を有したのかという問いに迫ることができると考えたからである。 さらに、2020年3月9日から13日まで、ドイツ・ハンブルク市のハンブルク大学現代史研究所とドイツ・ユダヤ史研究所、ケルンのゲルマニア・ユダイカ専門図書館で、史料調査と収集に従事した。特にハンブルク大学現代史研究所のオーラル・ヒストリー・アーカイブ「記憶の工房」が所蔵する、2010年に収録されたJeckeたちへのビデオ・インタビューのうち2件を、メモを取りつつ視聴した。次年度には、こういったオーラル・ヒストリー史料へのアクセスを本格的に始めていくつもりなので、その準備作業にもなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には、後期にサバティカルを取得できる見込みである。現在先行きが見えない新型コロナ肺炎の蔓延ではあるが、後期にそれなりの安定化が見えてくれば、海外出張(ドイツ及びイスラエル)を定期的に行い、史料収集に努めたい。 前年度3月のドイツ出張においては、「ドイツからの移住者連盟:HOG」の機関誌については、1933年から39年前半までの多くを、マイクロフィルムからPFD化して収集することができた。これの内容分析に着手する。また、パレスチナに新たに入ってくるドイツ語を母語とする中欧からのユダヤ人に対して、ヘブライ語からのドイツ語訳により現地の情勢を伝えた2つの定期刊行物の存在にも気がついた。1935年から発刊されたJedioth Chadaschothと、36年から発刊されたYedioth Hayomである。これらに関しては、マイクロフィッシュ化されているという情報があり、購入可能か調査を進める。 2020年12月に、九州史学会・西洋史部会で、Jeckeの人びとのインタビュー資料や回想録等を分析した成果の一部を報告できるよう、現在準備を行っている。
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Causes of Carryover |
2019年度は、大学内での業務予定の都合で、予定していた海外での資史料調査と収集が十分行えなかった。それで生じた差額である。現在の新型コロナ肺炎の蔓延について、現在の所まだ先行きが見えない状態である。ただ、2020年度の後半は、サバティカルを取得する予定なので、その時期に海外出張が可能になっていれば、2019年度の予定をここで取り返すべく、複数回のドイツ、及びイスラエル出張を行うことで、次年度の交付予定額(直接経費60万円)との合算額については、十分使用することができると考えている。
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Research Products
(2 results)