2021 Fiscal Year Research-status Report
Pastoral Care and English Constitutional Idealism of Robert Grosseteste
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18K01053
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
朝治 啓三 関西大学, 東西学術研究所, 客員研究員 (70151024)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グロステスト / シモン・ド・モンフォール / イングランド国制 / ヘンリ3世 / イノセント4世 / アダム・マーシュ / フランシスカン / 司牧 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍のため、研究活動が大幅に制限された状況であったが、本研究の計画に沿って、研究活動は概ね順調に進み、2021年度には5本の論文が公表され、講演を一回行うことができた。リンカン司教グロステストの司牧活動と、アンジュー家当主ヘンリ3世によるイングランド王国の統治との関係を明らかにするという研究構想のうち、司牧については、グロステストと大聖堂参事会との巡察権をめぐる論争を分析し、司教の巡察権が教皇によって承認される形で決着がついたことを論証した。さらにグロステストの弟子にあたるフランシスコ会修道士アダム・マーシュからレスタ伯シモン・ド・モンフォール宛書簡を分析して、カトリック神学が世俗国制の構想形成にいかなる影響を及ぼしたのかを分析した。 次いで後者の課題、王国統治と司牧との関連性については、グロステストとの密接な交友関係にあったことで知られるシモン・ド・モンフォールが1265年に開催したパーラメントが、通説に言われているような「庶民院の起源」であったのか否かを検証する論文を3篇公表した。これら論文のうち、シモンド・モンフォールが目指した国制の具体的イメージについては、1264年のパーラメントで制定された「統治の形式」を史料に基づいて英語で論文を作成し、SpicilegiumというWEB英文誌に公表した。 海外渡航で得られるはずであったグロステスト関係書類の原史料の転写が次年度へ繰り越される課題となった。研究費のうち次年度へ繰り越された外国旅費を用いて、2022年度に実行する予定である。研究費のうち国内旅費を使用して上智大学や国会図書館で、グロスステスト関係の書籍や雑誌論文を調査、利用して上記の論文を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外渡航が事実上不可能になっており、イングランドに赴いて、原史料を直接転写することができないため、イングランド人研究者が行うのと同じレベルでの史料研究をなし得なかった。その代わりに国内の大学図書館などに保存されている書籍や雑誌と、インターネットで入手し得る史料ファイルを用いてなし得る限りの研究を行った。上智大学図書館に赴いて、中世思想研究所所蔵のグロステストやフランシスカン関係の史料や研究図書を網羅的に調査した。また13世紀スコラ哲学、特にアリストテレスの著作のラテン語訳がグロステストによって果たされ、フランシスカンのオクスフォードにあった学校での彼の講義を通じて、受講した同修道会の托鉢修道士によって、司教区内信徒へグロステストが理想とする説教が行われることによって、カトリック神学に基づく世界観が広められようとしていたことを突き止め得た。 公表した論文では、グロステストが、カトリック神学に基づくイングランド教会信徒の司牧を実践するための制度作りに努力し、1237-45年にリンカン大聖堂の参事会員が保有する教区教会への巡察の可否をめぐって参事会長と論争し、1245年に教皇から司教の巡察権を承認する書簡を得たという事件の、歴史的意義を考察した。 さらにグロステストが神学に基づく国制の考え方を、シモン・ド・モンフォールに与えたというパウイクの研究の吟味を目指して、いかなる影響を与え、シモンの国制改革運動にどの程度の影響を与えたのかを、アダム・マーシュからシモン宛の書簡を分析して論文を作成し、先行研究の学説史から論点を探る論文と、史料に基づく独自説構築を目指す論文とをそれぞれ公表した。 司牧面と世俗国制面の両面から司牧と国制の関係を解明できたと考えている。一部を英文でも公表したので、国際的にも知られることになると見ている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ過による被害が無かった2018,2019年度の最初の2年度間には、グロステストのカトリック神学観に基づくイングランド王国統治に関する、司教の世界観を把握し論文を作成し得た。と同時に、レスタ伯シモン・ド・モンフォールの王国統治に関する構想を読み取り得る1264年の「統治の形式」を分析し得た。これら二つの系統の研究を総合することで、本研究の計画は実現し得たと考えている。 やり残しているのはリンカン大聖堂所蔵のグロステスト関係資料の閲覧、転写、入力と分析であり、2022年度はこれを実行するため、渡英して作業する。その結果をコンピュータ入力してプリントし、得られたデータを整理、分類して、歴史像を再構成する。リンカン大学歴史学部のウィルキンソン教授と既に連絡を取り、大聖堂文書館での転写作業についての情報を得ている。史料転写とその分析はかなり時間と人力を要する作業であり今年度後半はこれに費やされよう。それらの基礎的作業を踏まえて、論文を作成する予定である。 リンカンではリンカン大学の中世史研究スタッフとの討論を持つ予定である。これによって、本研究が世界水準に沿うレヴェルを持つように努力する。 研究の最終年度であるので、成果を英文でも作成し、英語論文として公表し、同時に海外の学会でも口頭発表する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年1月末に始まったコロナ禍のため、2021年度には外国出張が叶わなかった。そのため交付される予算のうち、外国旅費相当分を次年度へ繰り越す手続きを行うと同時に、一部を国内旅費や書籍購入費などに充てた。繰り越しの最大原因はコロナ禍による外国出張の困難さにある。 2022年4月以降、コロナ禍が収束して外国出張が可能となれば、予定していた予算を使用して英国の大学図書館や大英図書館、公文書館などで、原史料の調査、関係史料の転写、コンピュータ入力、その整理に予算を充てる予定である。協力を約束してくれている相手方大学とも連絡を取り合っており、こちらは出張可能となる時期を待っている。
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Research Products
(6 results)