2019 Fiscal Year Research-status Report
鹿島・香取「神郡」成立の背景を景観復原からみる考古学的実証研究
Project/Area Number |
18K01057
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
田中 裕 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (00451667)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 神郡 / 常陸国風土記 / 景観復原 / 終末期古墳 / 里長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では『常陸国風土記』の香島「神郡」建評記事に注目しつつ、「神郡」と通常の郡との違いを念頭に、古墳時代から奈良時代への地方行政区画の再編成がどのように行われたのかを探る。方法は、当該期にどのような景観変化を起こしていくのか、地域における地形、施設(郡庁・正倉院・寺院・墓・祭祀場、集落)、道具(土師器・須恵器・仏具・祭祀具)の位置関係を地図に落とし込み、時系列で分析しようというもので、①古墳調査に基づく古墳時代段階の地域集団結合・競合関係の復原、②奈良時代郡家(郡庁・正倉院等)と「郡寺」または祭祀遺跡の関係復原、③奈良時代火葬墓からみる領域復原(古墳群との関係、使用土器の分布と行政区の関係)が鍵となる。初年度の平成30年度は、①について、香島「神郡」が分離された母体の一つである「那賀国」に注目し、のちの那賀郡域における古墳の動態や、建評の状況を探る調査を実施した。2年目となった令和元年度は、この①に関する前年度成果が非常に重要であることが理解されたため、さらに重点的な地域研究が必要と判断した。まず、当初計画に従い、香島神郡建評時の地域集団の動向をさらに詳細に把握するとともに、神郡域に当たる鹿嶋市厨台遺跡出土墨書土器「神厨」「鹿島郷長」を用いて、里・郷に相当する集団の動向を明らかにした。その結果、神郡の建評時に、激しい地域再編が那賀郡に起こっており、新たな有力集団がのちの里長を占めていく可能性が高まった。神郡建評の意味を探る上で大きな成果となった。その成果は、那賀郡域での終末期古墳の分析成果と合わせ、「考古学からみた里長の系譜」として論文にまとめ、公表した。さらに、交通との関係が指摘されてきた神郡を理解するため、神祀りが交通システムにどう組み込まれており、国家形成にどのような具体的な役割をはたしているのかについて、「古墳時代交換信用システム小考」として論文にまとめ公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は神郡を含めた建評により地域において起こっている変化を、景観復原の観点から可視化しようというものであるから、徹底した地域研究が必要である。そのため、調査地域の関係者や地区及び土地所有者との協力関係により、計画をより実行面から調整して望む必要がある。令和元年度に当初計画していた水戸市舟塚古墳等の測量調査については、同じ内原古墳群中の牛伏17号墳の測量調査に振り替えて実施した。予定していた遺物調査・地理情報調査については、とくに鹿嶋市域の墨書土器の分析に注力し、また徳化原古墳出土の分析を進めることにより、前述の通り、里長の前身である五十戸長が、単なる古墳時代の首長としての地位を継承するだけでなく、競合していた有力者集団が合法的に地域支配の権益を握ることのできる新たな地位である可能性を指摘でき、神郡を含む建評の具体的な意義を描くことができた点で、計画を上回る成果を上げることができている。一方、鹿嶋市宮中野夫婦塚古墳ないし大洗町磯浜古墳群で古墳探査を計画したが、調査に適していた冬~春にかけては新型コロナウイルス感染症対策が必要となり、上記の分析作業と整理作業に振り替えて注力した。平成30年度において那賀国域内の競合関係と建評にかかる集団の動きを解析したのに続き、令和元年度は、のちの里の働きと交通との関係、神祀りの働きと交通との関係について、ともに国家の組織化を理解するのに必要な要素として解明できつつあり、計画を上回る研究の深化に成功している。以上のように、当初計画を若干変更してはいるが、従来から指摘されていた交通と神郡との関係について、より普遍的な歴史の流れの中に位置づけられる研究成果として、令和元年度は計画を上回る成果を得ている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究の3年目にあたる次年度においては、従来から計画していた探査とともに、計画を変更し、今回の研究の鍵を握る7世紀の動向解析をより深めるため、水戸市内原古墳群内の大型終末期古墳の測量調査、周辺の踏査を計画に入れ、城里町徳化原古墳伝統的な古墳群内の終末期古墳の造営集団を把握すると共に、別の里長系譜の始祖墓と目される隣の城里町徳化原古墳調査成果と比較しながら、古墳時代の集団が里・郷の把握へと移行する様子やその政治的意味をさらに解析する。合わせて、筑波郡域の7世紀古墳の分析について、つくば市平沢3号墳の分析を通じて深め、上記の那賀郡との比較をした上で、神郡である鹿島郡域の宮中野古墳群の資料を補強して比較する。その中で、建評の動きそのものは、のちの神郡と他の群との違いは明確になく、むしろ交通システム整備を含めた動きとして同様の動きであること、その中における寺院の機能の位置づけの違いである可能性について、根拠を集成・整理し、計画よりもさらに小地域の動向すなわち郡内の郷にも配慮しながら、古墳群と寺社の配置、郡家、郷の中核施設をもつ集落との関係を解析することにより、計画よりもさらに具体的な景観の可視化を図る。 なお、新型コロナウイルス感染症への対策を十分に採る必要があるため、状況に応じて柔軟に計画を後ろ倒し、令和3年度への一部調査の振り替えも視野に入れながら研究を進める。
|
Causes of Carryover |
フィールド調査に最適の冬~春にかけて、もう1箇所のフィールド調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策、及び資料の存する地元への配慮の必要性から、これらの調査を次年度送りとすることにより、差額を生じたものである。これについては、令和2年度にすでに実施を予定しているが、調査に適した季節が冬~春であることから、令和2年度の後半に令和2年度の当初予定であった調査活動と連続して実施する予定である。ただし、感染症の影響の程度、それを含めた地元への配慮の必要性がさらに高まった場合、調査に適した季節である冬~春にすべてを実施できない恐れもあるため、その場合には、研究の最終年次である令和3年度の6月までに実施する計画である。
|