2018 Fiscal Year Research-status Report
中世都市の近世化プロセスから再考する城下町の空間構造
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18K01138
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山村 亜希 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (50335212)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近世城下町 / 中世都市 / 城郭 / 景観復原 / 景観変遷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地域における中世都市の近世化プロセスに注目し、それを他地域と比較する視角から、日本の近世城下町の空間構造の特徴と地域性を考察し、近世城下町の成立メカニズム研究の枠組みを構築することを目的とする。この目的を達成するために、①研究対象地域を定め、その地域における戦国期から近世初期(16世紀末~17世紀初頭)の城下町形成期に関わる断片的な地理情報を、中世都市の景観復原の方法を援用して復原図として地図化し、城下町の形成プロセスを明らかにする。②さらに、当該地域における中世都市の分布や形態を検討し、地域構造論的視角から近世城下町の形成メカニズムを探る。③その結果を、国 内の他地域における近世城下町研究や、西欧中世都市における空間構造の近世化プロセスと比較し、日本近世城下町の空間構造の特質を考察する。 平成30年度は、研究対象地域の一つである東海地方のうち、豊臣期(16世紀末)における遠江二俣と近世前期(17世紀)における尾張犬山を事例として、史資料に即して景観復原を行い、それぞれの時期の空間構造が前代と何が異なり、どのように変化したのかを地図上で明らかにした。豊臣政権の大名の支城とされた二俣においては、天守を持つ二俣城と御殿のある鳥羽山城が別の峰に立地する、特異な城郭構造であった。二俣城の膝下には天守へのビスタを意識させる大手道や方形街区が形成される一方で、旧来の町場や天竜川の川湊はそのまま維持された。二俣においては、それぞれの立地に応じた都市機能の適正配置がなされたことで、分散複合型の中世都市に似た城下町が編成された。犬山では17世紀前期に竪町・総郭型の明快なプランが施工されたものの、足軽地の配置や惣構の構築等でその後も修正を重ねた。このような近世城下町に至る過渡期の空間構造の実像を明らかにしたことが、本年度の成果と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度で終了する別の科研の総括と家族の介護のため、土日や長期休暇に十分な現地調査を行う時間的余裕がなかった。次年度以降は、本研究の目的に適った調査地を定め、現地の資料調査と踏査を十分に行えるよう工夫をする。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、東海地方(尾張・美濃・伊勢)/瀬戸内沿岸(安芸・備後・周防・長門)/有明海沿岸(島原半島・天草地方)において、計画的に近世城下町の形成プロセスを明らかにするための資料調査と現地踏査を実施する。具体的には、これら3地域における形成期城下町の景観を、フィールドワークと現地博物館・図書館等で収集した同時代史料や発掘調査に、近世城下町図や地誌、近代地籍図等の地理情報を組み合わせて、地形とともに復原し、時期別に複数の段階に分けて地図化する。この形成期城下町の形成プロセスを、その前提となった、地域における中世都市の分布や形態と関連させて検討し、どのような再編が行われたのかを考察する。これらの地図化と考察によって、各々の地域における近世城下町の空間構造の特徴とその要因を明らかにする。 第二に、上記以外の地域における近世城下町の形成に関わる研究を、その根拠とされる文献・発掘・絵図史料とともに収集する。先行研究の多くは、城下町空間の一部を対象とするが、それらを地図化することで、空間構造の全体像に接近できる事例も多い。近年は、城下町に関連するシンポジウムや研究会も多く、これらから最新の研究を得ることもできる。精査した他事例の研究との比較によって、事例地域を相対化し、その地域性を見出す。 第三に、日本の近世城下町の空間構造に見られる近世化プロセスを世界史的視点から位置づけるために、中世都市が城や港を含めて再編される西欧の都市景観と比較する。具体的には、16世紀後期の景観を描くブラウンとホーヘンベルグの『世界都市図帳』における各都市の景観描写を、その前後の時期の都市図と比較し、大きな変化を遂げた都市について、その要因や背景を先行研究から探る。特徴的な近世化が見られる都市・地域においては、現地調査による都市図の追加収集や微地形の把握、周辺地域の構造変化の検討を行って日本の事例と比較する。
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Causes of Carryover |
平成30年度は国内外の調査地における現地調査を十分に行うことができず、それに係る旅費と物品費(書籍・地図類)の購入費に剰余が生じた。次年度は、現地調査とその準備のため、旅費と物品費として剰余額を併せた次年度の予算を使用する。
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