2022 Fiscal Year Research-status Report
中世都市の近世化プロセスから再考する城下町の空間構造
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18K01138
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山村 亜希 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (50335212)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 近世城下町 / 織豊期城下町 / 戦国城下町 / 港町 / 地形環境 / 村の城 / 都市計画 / 徳川家康 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地域における中世都市の近世化プロセスに注目して、日本の近世城下町の空間構造の特徴と地域性を考察する。具体的には、(1)研究対象地域を定め、地域における戦国期から近世初期に至る城下町の景観復原図を作成し、都市の形成プロセスを明らかにする。(2)当該地域において多数存在した中世都市の分布や形態を検討し、地域構造論的視角から、特定の近世城下町に淘汰された意味を探る。(3)その結果を、国内の他地域における近世城下町や、西欧中世都市における空間構造の近世化プロセスと比較し、近世城下町の特質を考察する。 本年度は、(1)に関しては、近江を事例として、長浜・水口といった織豊期以降に新しく建設された城下町の形成プロセスを復原的に検討しその特徴を論じた。この研究によって、城郭の進化と城下町の発展とが同じスピードやベクトルで進むとは限らないこと、過渡期の状況が如実にその後の空間構造にも現れることを実証した(論文「地理学的視点からの城下町再考」・学会発表「歴史地理学からみた城下町と城郭―近江を事例として―」)。(2)に関しては、中近世移行期の石見銀山の港町や山城国乙訓郡の「村の城」を事例として、地域構造の再編の一端を示す都市空間の景観変化の現象を具体的に解明した(論文「戦国期温泉津における都市空間の形成」・「水利・街道・村落景観からみた物集女城」)。また、若狭小浜の中世港町と近世城下町の空間構造の関連について(講演:福井県立若狭歴史博物館主催『令和4年度特別展 中世若狭の「まち」関連イベント わかはく講座』「地図から考える若狭湾沿岸の港町」)や、駿府と名古屋における徳川家康による「首都」構想と都市計画の共通点(講演:三重大学大学院地域イノベーション学研究科主催『第7回研究内容講演会』「東海の城下町にみる都市計画―駿府と名古屋を中心に―」)についても考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに繰り越した予算を含めて、本研究の大きな柱の一つである西欧中世都市の現地踏査(フィールドワーク)を計画していたが、今年度も新型コロナ感染症の影響とウクライナ情勢の悪化によって、海外渡航を断念した。今年度使用できなかった予算も含めて、最終年度には海外調査を可能であれば二度実施することを計画している。現在は、これまでに収集済みの資料を基に研究を進めているが、限られた調査と資料からどこまでの成果を導き出せるか、苦心している。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、尾張における近世城下町の形成プロセスと地域構造の変化を明らかにするために、尾張の城下町及び地域環境の復原研究を実施する。具体的には、名古屋城下町の形成過程、徳川家康の浜松・駿府と比較したときの名古屋城下町の特徴、尾張の守護所・戦国城下町である下津・清須・岩倉の空間構造、その他の戦国期拠点城郭周辺の景観変化について、中世尾張における城・屋敷と市・町の分布をふまえて、明らかにする。第二に、尾張以外における近世城下町の形成について、資料が得られた対象地で考察し、それとの比較によって、尾張という地域を相対化し、その地域性を見出す。具体的な比較対象地は、資料収集が進んでいる東美濃(郡上)・飛騨(松倉から高山へ)・播磨(姫路・赤穂・龍野)・能登(七尾)・三河(岡崎・拳母)・京都近郊のうちのいくつかを想定している。第三に、日本の城下町の近世化プロセスを世界史的視点から位置づけるために、西欧の中近世都市と比較する。現地調査によって、その他の都市図の収集や微地形の把握等を検討し、西欧都市の近世化について知見を得る。第四に、2023年度が研究の最終年度であるため、これまでの事例研究や、資料分析、研究史整理をふまえて、尾張の都市空間における中世から近世への変化を中心に研究を総括する。
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Causes of Carryover |
今年度までの3年間、コロナ感染状況の拡大とウクライナ情勢の悪化により、ヨーロッパ中近世都市での資料収集と現地踏査に係る旅費の執行ができなかった。国内の現地調査も、同様の理由で困難な時期があった。次年度には、調査可能な国と地域で現地調査を積極的に行う。特にヨーロッパには可能であれば2回渡航する。このとき、西欧中近世都市の都市図や地図類、資料を用いて1日につき1都市のペースで現地踏査を行うため、膨大な画像資料の閲覧・書き込みに便利な高精細なタブレットPCを購入する。また、国内調査の旅費や図書・報告書、作図のためのアルバイト代としても予算を執行する。
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