2018 Fiscal Year Research-status Report
在地社会の宗教思想と記念行為についての歴史民俗学的研究
Project/Area Number |
18K01179
|
Research Institution | Ikuei Junior College |
Principal Investigator |
佐藤 喜久一郎 育英短期大学, その他部局等, 講師(移行) (30728358)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 在地縁起 / 地域文化 / 民俗宗教 / 土着性 / 記憶 / 歴史実践 / 地域的アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
北関東の調査地で「地域神話」について積極的な史料調査(整理と写真撮影)を続けている。いわゆる「在地縁起」をはじめ、由来書、記念碑、伝説など、地域共同体の「歴史」を語る多様な資料を「地域神話」とみなして分類整理し、さらに比較研究することで、「歴史」の物語が創られ、変化した社会的背景について解明を試みている。 現在は地域的アイデンティティ構築の視座から、上野国の「国の父」とされる英雄的人物の来歴を説く「群馬八郎」伝説関係の資料を重点的に調査している。2018年度の重要な成果は、榛名山麓の戸榛名神社(高崎市)から『戸榛名権現根本之縁起』なる縁起書を多量の関連史料と共に発見したことである。 「在地縁起」の研究では、関連史料が少ないこともあり、発見された縁起の多くは「中世的文化」の痕跡だと理解されている。しかし戸榛名神社の場合は例外的に、縁起書の伝来の経緯などを説く一連の文書が縁起書と共に現存することが重要である。そのため本事例においては、資料群全体の分析を通じて、「在地縁起」が現実の地域社会でどのような社会的役割を果たしたかを明らかにすることができるのである。 近世の「在地縁起」は同時代の政治的、社会的状況のなかで作成されたのであり、それらを単に「古代的」または「中世的」なものとみる従来の通説的理解は不十分であった。『戸榛名権現根本之縁起』の場合も、縁起書自体は中世のものに擬しているが、実際には古縁起を装った18世紀の模造品であり、文書を加工し、焼き跡などを付けて古味を出そうとしした痕跡が見つかった。 北関東は特徴的に「中世」の「在地縁起」が多数存在することで知られる。ところがそれらの多くは近世以降の写本であり、何らかの同時代的な事情によって創られたものなのである。戸榛名神社のケースをモデルにして、古い物語をリバイバルさせた在地の人々の動きについて検討してゆく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
在地縁起、由来書、由緒書、記念碑など、民衆の歴史実践にかかわる多様な資料を調査分類し、それらの比較検討により研究を進めている。歴史実践と地域的アイデンティティとの関係を明らかにするのが目的であるが、扱う領域が極めて広範であるため、最初の調査対象を「国の父」に関するもっとも有名な在地縁起書(群馬八郎関係のもの)と、それに直接関係する資料のみに限定した。 しかし、それでも予想を上回る点数の資料が発見され、その整理分類のために文書封筒を準備しなくてはならなくなるなど、予想外の事態が起きた。在地縁起に関する先行研究は、資料が作られた社会的背景までは考慮しなかったため、調査も縁起書それ自体のテキスト分析にとどまる例が多かった。そのため、先行する研究者がすでに調査ずみの寺社などの場合でも、関連する地方文書などが未整理のまま残されているケースが多い。本研究では、それらも漏らさず調査を進めているため、ひとつひとつの調査場所で非常に多くの時間を取られている。 また、縁起書などの文化財的価値の高い資料については、専門家の意見を取り入れて取り扱い方を配慮するなど、資料を損傷することのないよう細心の注意を図っている。そのため調査には時間がかかるが、資料の性格を考えると妥当な処置と思われる。そのた調査はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
在地縁起、由来書、由緒書、記念碑など、地域に残る貴重な資料について引き続き調査解読を進めてゆく。寺社や関係者宅などに保存されている資料を発掘し、整理分類して必要なものについては翻刻して公開するようにする。特に、未調査の資料を多く残す戸榛名神社をはじめとする調査箇所に関しては重点化して十分な調査を行い、地域神話が社会のなかで果たした役割を豊富な資料をもとに考察できるようにする。同時に、文書類を所持する人々(多くの場合宗教者やその末裔)を対象にインタビュー調査を行い、文書(特に縁起、系図、秘伝書類)の伝来について当事者の証言を詳しく記録する。 貴重な地域資料の整理分類、記録、解読に対しては、地域社会からの期待が大きいことを鑑み、行政をはじめ、地域の文化振興を行うNPOなどと協力して作業を進めることにしたい。文書目録を作成し、写真撮影し、整理分類し、翻刻の作業を行う。 また、中世の縁起書や秘伝書などの貴重資料については、撮影や調査分析に先立ち、当該分野の専門家による鑑定を行うものとする。民俗学者である研究代表者だけで行うのでなく、必ず中世史、近世史、古典文学の研究者を交え、それぞれの知識に基づいて資料の内容と形態を詳しく検討する。
|
Causes of Carryover |
文書群の整理分類の作業を行う予定であったが、文書調査に先立ち貴重資料のくわしい鑑定を行ったことと、文書所蔵者側の事情により、2018年度中には本格的な文書整理、写真撮影の作業を行うことができなかった。そのために、人件費と交通費を中心とする予算を次年度以降に回すことになった。
|
Research Products
(2 results)