2020 Fiscal Year Research-status Report
「学校伝承」という戦術-民俗芸能伝承の実践コミュニティの創成と動態に関する研究
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18K01194
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
高橋 晋一 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (10236284)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 民俗芸能 / 伝承 / 教育 / 学校 / 実践コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により,調査予定の民俗芸能の上演がほぼ中止(あるいは簡略化した上演)となったため,地域社会における民俗芸能の伝承戦略に関する文献研究と,可能な範囲での聞き取り調査,資料収集を中心に研究を進めた。調査対象(学校)の感染防止のため調査の制約はあったが,徳島県内における学校伝承の未調査の事例3例について,学校関係者からの聞き取り,資料提供により,学校伝承の取り組み状況の変化の過程をおおよそ把握することができた。次年度,さらに詳細な調査を行い,より丁寧なデータの収集,分析に努めたい。これまでの調査と文献研究の結果,地域と学校の連携(伝承)のパターンには,学校と地域の保存団体が連携して伝承を行っているタイプ(連携型),学校と地域の保存団体がそれぞれ分かれて民俗芸能を伝承しているタイプ(分離型),学校のみで伝承しているタイプ(学校単独型)の3タイプがあることが見えてきた。また,これらのタイプを規定する要因(学校伝承のあり方の違いを規定する要因)として,地域(保存会)主体で民俗芸能を伝承していく余力がどの程度あるか,学校側が,カリキュラムや時間の制約の中で,民俗芸能をどのような形で教育現場の中に位置づけ,受け入れる判断をするか,地域と学校をつなぐキーパーソンが存在するかどうかが大きいことが明らかになった。当初,連携型で行われていた伝承が,後に分離型ないしは学校単独型に移行する事例も見られるが,こうした変化についても,上記の3要因との関連で理解することが可能と考えられる。芸能伝承に関わる(キーパーソンを含む)地域・学校の諸アクターの意識,民俗芸能の芸態とその変化に関するデータを次年度の調査で補い,上記の分析モデルの精緻化を図りたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は,これまでに実施した調査データの全体的な整理,および文献研究の成果もふまえ,「学校伝承」の導入による民俗芸能の形態や伝承システム(実践コミュニティ)の再編・創成(再構築)の過程とその背後にあるメカニズムを明らかにする計画であった。しかし令和2年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により,調査予定の民俗芸能の上演がほとんど中止となり,また,感染防止の観点から空間の移動や対人接触をできるだけ避ける必要があり,聞き取り調査の実施においても大きな制約が生じた。こうした状況の下,地域社会における民俗芸能の伝承戦略に関する文献研究と,可能な範囲での聞き取り調査,資料収集を中心に研究を進め,徳島県内における未調査の事例3例について,学校伝承の取り組み状況の変化の過程をおおよそ把握することができた。また,文献研究により,他県での取り組み状況の事例の追補を行った。平成30年度~令和2年度までの調査結果を総合し,地域と学校の連携(伝承)のパターンと,その規定要因について一定の見通しを立てることができたが,芸能伝承に関わる(キーパーソンを含む)地域・学校の諸アクターの意識,民俗芸能の芸態とその変化に関する具体的なデータが不足している面があり,次年度さらに,調査の不足している事例について詳細調査(観察・聞き取り調査)を行い,精緻な分析と仮説の検証に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により,データの収集に困難を生じる部分があった。令和3年度は,データが不足している事例を中心に,芸能伝承に関わる(キーパーソンを含む)地域・学校の諸アクターの意識,民俗芸能の芸態とその変化等に関する詳細調査(観察調査,聞き取り調査)を行う。これまでの調査研究で得られたデータ全体を踏まえ,「学校伝承」の導入による民俗芸能の形態や伝承システム(実践コミュニティ)の再編・創成(再構築)の過程とその背後にあるメカニズムを明らかにする。さらに,民俗芸能の伝承戦術としての「学校伝承」の可能性/問題点(課題)について考察する。聞き取り調査については,対面調査が困難な場合,電話やZoom等のオンラインツール,書面(手紙,ファックス)による調査で代替することを考える。民俗芸能の上演が行われる場合,練習および本番の観察調査を行うが,上演が中止になるなど直接的な調査が困難な場合には,過去に撮影された映像記録との分析と,丁寧な聞き取り調査を合わせることで代替することを考えている。
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Causes of Carryover |
令和2年度は,調査予定の民俗芸能の上演がほとんど中止となり,また,感染防止の観点から空間の移動や対人接触をできるだけ避ける必要があり,現地に赴いての聞き取り調査の実施に大きな制約が生じた。そのため,旅費を執行することができず,また,調査の進捗状況と関連して,謝金による研究補助業務(調査データの整理作業),最終的なデータのとりまとめとwebでの調査結果の公開も今年度は行うことができなかった。こうした要因により,次年度使用額が生じた。令和3年度は,主に,調査の不足している事例について詳細調査(観察・聞き取り調査)を行うための旅費,調査データの整理・分析や,データのweb公開の過程で必要となる消耗品費,研究補助(学生による調査データの整理作業)のための謝金等のために経費を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)