2021 Fiscal Year Research-status Report
「学校伝承」という戦術-民俗芸能伝承の実践コミュニティの創成と動態に関する研究
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18K01194
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
高橋 晋一 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (10236284)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 民俗芸能 / 学校 / 伝承 / 教育 / 実践コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は,前年度に続く新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により,調査予定の民俗芸能の上演がほぼ中止となったため,地域における民俗芸能の伝承戦略に関する文献研究と,可能な範囲での聞き取り調査,資料収集を中心に研究を進めた。また,全国における学校伝承の取組事例をweb調査と文献調査によって網羅的に収集し,データベース化した。その結果,学校の中でもとくに小学校での伝承事例が圧倒的に多いこと,取組事例の多い地域(都道府県)・少ない地域が見られることが明らかになった。取組事例の多寡の背景には,地方自治体(教育委員会)の文化政策的な面も影響を与えていると考えられる。 現地調査については,徳島県小松島市の2地区における「祇園囃子」の学校伝承の2事例の詳細な聞き取り調査を行った。立江町西崎地区では 2005年,学校の週休2日制導入に伴う地域活動の取組として,立江小学校と連携して「祇園囃子伝承教室」を創設,以後,保存会メンバーと伝承教室で祇園囃子を伝承している。赤石町の豊浦神社でも2009年に地元の新開小学校と連携して「祭祇園囃子教室」を結成,保存会メンバーとともに伝承に取り組んでいる。両地域では囃子の練習・伝承に際してサウンド編集ソフトを用い,各鳴り物の演奏タイミングをマルチトラック画面で視覚的に示したDVDを作成,練習の効率が格段に上がったというが,伝承におけるデジタル技術の活用という点で注目される。これまでの調査で,地域と学校の連携(伝承)のパターンには,学校と地域の保存団体が連携して伝承を行うタイプ(連携型),学校と地域の保存団体が別々に民俗芸能を伝承しているタイプ(分離型),学校のみで伝承しているタイプ(学校単独型)の3タイプがあることがわかったが,今回の調査事例は連携型に分類でき,地域と学校の「協働」による伝承という意味では理想的な形と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は,これまでに実施した調査データの全体的な整理,および文献研究の成果も踏まえ,「学校伝承」の導入による民俗芸能の形態や伝承システム(実践コミュニティ)の再編・創成(再構築)の過程とその背後にあるメカニズムを明らかにする予定であった。しかし令和3年度は,前年度に続き新型コロナウイルス感染症の拡大傾向が収まらず,調査予定の民俗芸能の上演がほとんど中止となり,また,感染防止の観点から空間の移動や対人接触をできるだけ避ける必要があり,聞き取り・観察調査の実施に大きな制約が生じた。こうした状況の下,地域における民俗芸能の伝承戦略に関する文献研究と,可能な範囲での聞き取り調査,資料収集を中心に研究を進めた。また,全国における学校伝承の取組事例をweb調査と文献調査によって網羅的に収集し,データベース化した。聞き取り調査については,とくに徳島県内の未調査例2例について詳細な調査を行うことができた。しかし,芸能伝承に関わる(キーパーソンを含む)地域・学校の諸アクターの意識,民俗芸能の芸態とその変化に関する具体的なデータが不足している面があり,次年度に補足・追加調査(観察・聞き取り調査)を行い,より精緻な分析と仮説の検証に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,前年度に続く新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により,とくに現地調査(聞き取り・観察調査)にかかるデータの収集に大きな支障が生じた。令和4年度は,感染対策に十分留意しながら,データが不足している事例を中心に,芸能伝承に関わる(伝承にかかるキーパーソンを含む)地域や学校の諸アクターの意識,民俗芸能の芸態とその変化等に関する追加・補足調査(観察調査,聞き取り調査)を行いたい。これまでの調査研究で収集したデータを整理した上で,本研究の総括として,「学校伝承」の導入による民俗芸能の形態や伝承システム(実践コミュニティ)の再編・創成(再構築)の過程とその背後にあるメカニズムを明らかにする。さらに,民俗芸能の伝承戦術としての「学校伝承」の可能性/問題点(課題)について考察を加えたい。聞き取り調査については,新型コロナウイルス感染症の拡大状況により対面調査が困難な場合,電話やZoom等のオンラインツール,書面(手紙,ファックス)による調査で代替することを検討する。今年度は民俗芸能の上演を行う方向で検討されている事例もあり,先方と連絡を取りつつ練習および本番の観察調査を行うが,上演が中止になった場合は,過去に撮影された映像記録の分析と,関連資料および聞き取り調査により,可能な限り詳細で正確なデータの確認を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和3年度においても,新型コロナウイルス感染症の拡大傾向が続き,調査予定の民俗芸能の上演がほとんど中止となり,また,感染防止の観点から空間の移動(とくに県外への移動)や対人接触をできるだけ避ける必要があり,現地に赴いての聞き取り・観察調査の実施に大きな制約が生じ,旅費を執行することができなかった。結果として,最終的なデータのとりまとめと,webでの調査結果の公開も今年度は行うことがかなわなかった。こうした要因により,次年度使用額が生じることとなった。令和4年度は,主に,調査が不足している事例について詳細調査(観察・聞き取り調査)を行うための旅費,調査データの最終的な整理・分析や,データのweb公開の過程で必要となる消耗品等のために経費を使用する予定である。
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