2019 Fiscal Year Research-status Report
ネオリベラリズム統治に対する批判的法理論の分析とポストモダン人権論の構築
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18K01209
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
関 良徳 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (90313452)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コスタス・ドゥジナス / 批判法学 / ポストモダン人権論 / 抵抗への権利 / 市民的不服従 / ネオリベラリズム / コミュニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は次の二点である。(1)ミシェル・フーコーの統治性研究に基づくベン・ゴールダーのネオリベラリズム批判の法理論を発展させ,その実践的応用を試みる。(2)ネオリベラリズムの排外主義や貧困・経済的格差を批判するコスタス・ドゥジナスのポストモダン人権論の理論構造とその機能を分析し,ネオリベラリズムの法・政治状況に抵抗する人権理論としての意義とその実践可能性を明確化する。これらの研究目的から令和元年度は次の三つの研究を行った。 第一に,ドゥジナスの諸著作、とりわけ The Radical Philosophy of Rights, (Routledge, 2019)におけるネオリベラリズム批判の6つのテーゼとポストモダン人権論の公理について分析し,彼の主張の到達点が,個別的なるものの連帯としてのコスモポリタンな「コミュニズム」であることを明らかにした。さらに,その背景にはスライヴォイ・ジジェクやアラン・バデュのコミュニズム思想が大きく影響していた。 第二に,ドゥジナスのポストモダン人権論が人権の目的を支配・抑圧への抵抗と捉え,「抵抗への権利」を人権論の根源的な基盤としていることが明確化された。この明確化の過程で,リベラリズムの人権論が財産権を重視し,ネオリベラリズム支配への抵抗を困難にしていること,さらに,リベラリズムの市民的不服従論もネオリベラリズム統治の経済システムに起因する構造的不平等への対抗策とはならないことが確認された。 第三に,抵抗への権利を主軸とするポストモダン人権論の思想的立脚点を解明した。抵抗は人種差別,植民地政策,経済格差,環境問題などの個別的な文脈で生起するが,他方で,抵抗は既成秩序の否定を企図する闘技的普遍性の下に実践される。これは、民主制からも社会的分配からも排除された人々による不正義との闘争にこそ普遍的規範性が存在するという思想に基づくものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は,ドゥジナスが理論化したポストモダン人権論の解明とその法的・政治的実践可能性の探究が計画されていた。 (1)ドゥジナスのポストモダン人権論の解明 本研究については,令和2年3月に研究論文「人権論のパラドクスと抵抗への権利 ― コスタス・ドゥジナスの批判法学」が『一橋法学』第19巻第3号に掲載された。この論文では、前半部分でドゥジナスの最近著 The Radical Philosophy of Rights で展開されたポストモダン人権論を分析し,ネオリベラリズム統治に対する批判から新たなコミュニズムの提唱へと至る6つのテーゼが明確化された。さらに後半部分では,ドゥジナスのポストモダン人権論が,人々の不正義感覚を原動力としながら,個別的な諸個人の公理的平等と抵抗への権利を哲学的な基盤とするラディカルな人権論の構築へ向かうことが示された。 (2)ポストモダン人権論の法的・政治的実践可能性の探究 本研究については,前掲論文においてその解明のための基盤を提示することができた。すなわち,グローバルなネオリベラル資本主義とリベラリズムの人権論との連結を切り離し,イマジナリーな領域としての公理的平等論が実践的な次元で目指されるとの結論が得られた。公理的平等論では,資力とは無関係に社会保障が提供され,国籍に関係なく居住と労働の権利が保障され,シティズンシップに関係なく政治活動の自由が認められる。ネオリベラリズムの排外主義や貧困・経済的格差を批判するドゥジナスの法理論が,ギリシア左派連合政権をめぐる省察を経由して,来るべきコミュニズムの姿を追究する実践であることが明らかになった。 以上の通り,本研究は計画に沿って順調に進められた。年度末に計画していた海外での資料収集や学会参加が新型ウィルスの影響で実施不可能となったが,インターネットを最大限に活用することで上記成果を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究成果を踏まえ,令和2年度は当初の計画通り「ネオリベラリズム批判の法理論の可能性」をテーマとして3年間の成果を総括する。 本研究においては,令和元年度に行ったポストモダン人権論の分析がブレイクスルーとなり,現代の批判法学及びポストモダン法学が目指すべき方向性としての「コミュニズム」論が示された。すなわち,ネオリベラリズム統治への抵抗を新たな人権として定位し,リベラリズムの市民的不服従を超えた,根源的な変革を求める抵抗運動として,多様なる個人の連帯を再組織化するコミュニズムの在り方が重要となる。 今後は,連帯としてのコミュニズムと法理論との新たな関係性の構築に向けて,本研究の当初計画通り,闘技的民主主義等の制度論や批判法学的な司法戦略論の明確化を試みる。その上で,ネオリベラリズム批判の法理論の実践的可能性を追究する。そして本研究の成果は、国内及び国外における学会での報告や研究誌にて発表する。 但し,新型ウィルスの影響による海外渡航制限の措置が一定期間解除されない場合には,インターネットでの資料収集及び,研究期間の延長を含む様々な手段を講じて,本研究を完遂させる計画である。
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Causes of Carryover |
<次年度使用額が生じた理由> 2020年3月に予定していた英国での資料収集及び学会参加が、新型コロナウィルスの蔓延により不可能となったので、出張をキャンセルした。この結果、次年度使用額が生じた。 <翌年度分と合わせた使用計画> 2020年度には、海外出張が可能となった時点で英国での資料収集及び学会参加を実施する。このための海外出張旅費として助成金を使用する。また、海外出張の機会喪失をカバーするために、インターネット等を最大限活用する。これに伴い、通信関連機器を充実させるために助成金を使用する。
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Research Products
(2 results)