2021 Fiscal Year Research-status Report
ネオリベラリズム統治に対する批判的法理論の分析とポストモダン人権論の構築
Project/Area Number |
18K01209
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
関 良徳 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (90313452)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ネオリベラリズム / 人権 / コミュニズム / 抵抗への権利 / ドゥジナス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は次の二点である。①ミシェル・フーコーの統治性研究に基づくベン・ゴールダーのネオリベラリズム批判の法理論を発展させ,その実践的応用を試みる。②ネオリベラリズムの排外主義や貧困・経済的格差を批判するコスタス・ドゥジナスのポストモダン人権論の理論構造とその機能を分析し,ネオリベラリズム統治に抵抗する人権理論としての意義とその実践可能性を明確化する。これらの研究目的を達成するため令和3年度は次の二つの研究を中心に行った。 第一に,ネオリベラリズム統治を批判する多くの思想家がマルクスの人権批判に依拠していることから,その前提を確認した上で,ネオリベラリズムと人権との「共犯」関係を指摘するウェンディ・ブラウンやナオミ・クラインの所説を検討した。さらに,ネオリベラリズムと人権との関係性については,人権史の観点から批判的検討を進めているサミュエル・モインの議論に着目して,ネオリベラリズムと人権とを「共犯」関係ではなく,ネオリベラリズムの暴走を制御できない「無力な仲間」として人権を位置付けることで,リベラリズムの人権理論が抱える困難を明確化した。 第二に,ドゥジナスのポストモダン人権論に多大な影響を及ぼしているアラン・バディウやジョルジョ・アガンベンの所説を検討し,リベラリズムが推し進める人権論の問題点を不法移民や難民という観点から明らかにした。他方,人権概念を批判的に救済するコミュニズムの理論家として,エティエンヌ・バリバール,クロード・ルフォール,ジャック・ランシエールの各理論について検討を進め,ネオリベラリズム統治への不満に応えるコミュニズムからの人権論として提示した。特に,ランシエールによるコンセンサス政治への批判(不和の政治)と政治的主体化の概念を批判的に乗り越えることで,ドゥジナスが「抵抗への権利」をラディカルな人権論として構成していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年度の研究計画では,ネオリベラリズム批判へと向かう法理論の実践的可能性を追究し,論稿としてまとめるとともに,国内学会での報告を準備することとなっていた。 この研究計画が順調に進められていることを示すものとして,令和4年3月に公刊された研究論文「ネオリベラリズム統治批判からコミュニズムの人権論へ」『信州大学教育学部研究論集』第16号が挙げられる。この論文では,ネオリベラリズム統治批判の観点からリベラリズムの人権論を批判するアラン・バディウやジョルジョ・アガンベンの理論を検討した上で,「人権」の批判的救済を唱えるバリバール,ルフォール,ランシエールの議論を検討し,ネオリベラリズム統治批判の人権論を提示した。また,ここで示された人権論をドゥジナスの「抵抗への権利」へと批判的に再構成することで,その実践可能性をさらに高めることができることが明らかとなった。なお,この研究論文の構想については令和3年6月の東京法哲学研究会にて報告を行った。 他方で,令和3年度は新型コロナウィルス感染症の影響で当初予定していた英国渡航が実現できず,現地での資料収集や研究打ち合わせが不可能となった。これにより,研究計画にしたがった研究遂行に困難を生じたことから,研究期間を再延長することとなった。これにより令和4年度での研究完成を目指すことが可能となった。 以上を総合的に判断した結果,本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の再延長により,令和4年度も本研究主題での研究遂行が可能となった。そこで,昨年度までの研究成果を踏まえ,研究計画書の最終年度スケジュールにしたがい,令和4年度は「ネオリベラリズム批判ヘ向けた法理論の可能性」を主題としてこれまでの成果を総括する。 本研究については,令和元年度に行ったポストモダン人権論の分析により現代の批判法学及びポストモダン法学が目指すべき方向性としての「コミュニズム」論を示すことができた。さらに令和3年度の研究成果から,コミュニズム思想における人権の批判的救済という新たな視点が得られ,この視点とドゥジナスの「抵抗への権利」とを比較検討することで,ネオリベラリズム統治への抵抗を基盤とする新たな人権論の構築を進める計画である。 本研究の成果は、国内及び国外における学会での報告や学術論文として発表する。また,昨年度に引き続き,新型コロナ・ウィルスの影響による海外渡航制限の措置が一定期間解除されない場合には,インターネットでの資料収集を中心とする様々な手段を講じて,本研究を完遂させる計画である。
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Causes of Carryover |
<次年度使用額が生じた理由> 2021年度に予定していた外国での資料収集及び学会参加が、新型コロナ・ウィルスの蔓延により不可能となったので、出張を次年度以降に行うこととした。この結果、次年度使用額が生じた。 <翌年度分と合わせた使用計画> 2022年度には、海外出張が可能となった時点で英国での資料収集及び学会参加を実施する。このための海外出張旅費として助成金を使用する。また、海外出張の機会喪失をカバーするために、インターネット等を最大限活用する。これに伴い、通信関連機器を充実させるために助成金を使用する。
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