2018 Fiscal Year Research-status Report
The Research of the Right to be no discrimination
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18K01253
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
木村 草太 首都大学東京, 法学政治学研究科, 教授 (50361457)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法学 / 平等権 / 差別 / 平等原則 / 非差別原則 / LGBT / マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、憲法上の平等権について研究を行い、年度初頭に法学教室に平等権の違憲審査基準に関する論文を公表した。また、10月には、日本公法学会において、平等原則と非差別原則、そしてそれに関連する他の憲法上の原則との関係を検討し、報告を行った。さらに、年度終わりには、性同一性障害を理由とした戸籍上の性別変更について、欧州人権裁判所・ドイツ憲法裁判所の判例を調査し、それと日本法の比較を行う研究を進めた。 本年度の研究成果は、平等権と差別されない権利が重なる部分とそうでない部分を解明したこと、それらの権利が、他の権利とどのような関係にあるかを明らかにすること、の二点にあったといえる。まず、平等権の違憲審査基準について、従来型の見解は、いわゆる三層審査を行おうとするが、それはアメリカ法の恣意的な再構成であり、その背後にある実体的権利を確定することなしに、審査基準論を精密化することはできない。本研究において、三層目の厳格審査は、実は平等権ではなく、差別されない権利に関する違憲審査基準であることを解明した。 次に、しばしば平等権については空虚論が唱えられ、他の実体的権利を行使できるときに平等権を行使する理由は弱いと言われたりする。この点は、確かに正しいと言えるが、実際の訴訟では、実体的権利と平等権が並行的に行使され、相互に補強し合う関係にあることもある。これは理論的に見ると不思議な現象だが、実務家の発想を誘発させる何かがそこにあるのも事実であろう。ここまでが本年度に解明できた内容であり、来年度は、その「何か」を検討することが課題となる。課題が明確になったという点も、大きな成果となっており、今年度の研究は成功裡に終了したといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究一年目にあたり、元来、資料収集・資料整理・分析を中心とする予定であった。しかし、思いのほか研究のペースが速く進み、二本の原稿を公表することができた。この点で、計画以上の成果が上がったと言える。次に研究計画においては、外国法の分析も十分に行うべきと考えたが、従来の比較法の在り方からすると、新しい分野である欧州人権裁判所の差別・平等に関する判決の研究も進めることができた。 さらに、憲法学のみからの観点ではアプローチできない家庭内での不平等・差別の問題である虐待やDVという問題について、離婚というテーマからの論文を執筆できた。このプロセスの中で、閉鎖空間における差別や平等の改善が困難で、公権力が十分に介入できないことを見越した制度設計のありようがあることを明らかにする研究を行い、それを公表することもできた。 総じて、新しいテーマの発見、従来掘り下げられなった分野への視野の拡大、順調な資料収集、適切なタイミングでの成果物の公表といったことが、諸々順調に進み、当初予定していた以上の業績を公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、平等・差別について、様々な問題点を検証し、体系的な研究にまとめることを基本方針とする。 まず、平等の概念については、従来の通説的整理が必ずしも自覚できていない平等権の学説の意義を明らかにするとともに、差別概念について、偏見という概念と区分、合理的配慮請求権と差別されない権利を区別すべきこと、差別と不合理な区別の違いを精密に区分し、差別に起因しない不合理な区別、差別に起因する法的効果を伴わない現象など、概念整理を行い、明晰な定義をまとめたい。 次に、平等権・差別されない権利については、国籍法違憲判決という重大は平等関係判例の分析、夫婦別姓訴訟について第一次訴訟の争点形成の失敗と、第二次訴訟群における新しいアプローチの区分、非嫡出子の法定相続分最高裁決定の変動について、なぜ、全員一致の非理論的判決文ができたかということを法理論的に解明すること、ムスリム情報収集事件について、原告たちが訴えたかったことは一体何なのかという問題点、同性婚訴訟における憲法24条解釈、LGBTの法的保護に関する差別されない権利の整理といった各論的問題をどのように整理するかという検討が必要となる。 さらに、在外邦人選挙権訴訟、国政選挙定数訴訟と国籍法違憲判決における裁判所のアンバランスな対応について、それがアンバランスであることがなぜ気づかれていないのか、というテーマも検討が必要で、この点は日本の判例法理の分析が必要となると思われる。 今後は、総論的研究とともに、このような膨大な各論領域における平等権・差別されない権利の意義について研究していくことが、今後の研究の推進方針となる。また、これについては丁寧な比較法分析とともに、これまでにない視点を厭わない国内法研究の方法の開発も必要となるであろう。
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Research Products
(4 results)